【ネビロス】
痕跡を消す。文字通り、まっさらな状態に戻さなくてはならない。気絶しようが終らない、永遠とも思えたそれが漸く終りを迎えた様で、息も絶え絶えなネビロスは途切れそうな意識を何とか保ちながら解放されるのを待った。あと少し。これだけ終れば解放される。そうしたら暫くはまた静かに過ごせる。
「大丈夫、死なないよ」
体の中も外も、全くの無傷且つ体液の痕跡すら残さず綺麗にするのは低級悪魔の仕事。自分より強いものに触れられる為、彼等に取っても美味しい仕事。
「あげる。じゃ、またねぇ」
去り際に投げて寄越されたのはまた別の低級悪魔。植物の様な姿をして居る。
「……あぁ、解った」
既に姿が消えた空間に、虚脱の声が吸い込まれた。 凌辱の痕跡を幾ら消した所で精神的な疲労までは回復しない。ネビロスは自我が芽生える前から奴等に犯され続けて居る。はっきり憶えて居る訳では無いが、そうなのだろうと解る。それならばいい加減適応して貰いたいものだが、押し潰されそうなこの感覚は何時まで経っても消えない。嫌悪感、とはまた違った……何か。 ヒトとは面倒な生き物だ。