【リディカ/ネビロス】
痛む体をソファに預け、眼を閉じる。そのまま眠ってしまいたかったが痛みに意識が向いてしまい、眠気が来る気配は無い。
「傷……治らないのか」
ネビロスと呼ばれて居た青年が不思議そうにリディカを見て居る。あのディアーニオの息子でも無さそうだが、彼は何なのだろう。
「私は人間だから」
痛みと苛立ちとで八つ当たり気味に答える。同じ感覚があるかは知らないが、自己治癒能力が桁違いな奴等には理解出来無いであろう。少しでも和らぎはしないかと深く呼吸をした。
「ニンゲン」
「そう。人間。貴方達の玩具」
奴の近くに居る割には何も知らないらしい。外見はあてにならないが、未だ若い個体に見えるし戦力外なのかも知れない。そんな事より今は休みたい。勝手に充てられたとは言え此処は自室なのだから、早く出て行って欲しい。
「……俺と同じ」
触られた体も早く洗いたいし、血や他のものも流してしまいたい。苛立ちの片隅に何かが引っ掛かった気がして、リディカは伏せて居た視線を上げた。其処に居る青年を改めて見る。今、彼は何と?
「賢者が教えてくれた。俺はニンゲンだから弱いんだって」
頭がぼんやりと、霧がかった様に白くなって行く。それが本当ならば何故こんな所に居るのだろう。何時から?自分以外の人間を知らない様な口振りは何なのか。賢者とは誰なのだ。疑問は次から次へと出て来るが、どれ一つとして声には出ない。ただ、目の前の自称人間を見て居るだけだった。