【事の始まり】
(自分を護る事だけ考えて)
リディカは捕まる寸前にパートナーの言った言葉を思い返して居た。気を抜くと泣き出してしまいそうになる。リーチェが敵わない相手に自分が勝てる訳が無いと思いながらも、彼を裏切る訳には行かない。勝てないのならば逃げる方法を考えよう。
「さて……どうする?」
ディアーニオが牙を見せて笑った。確実に負けないと確信して居るのだろう。そうで無ければ堂々と背を向けたりしないだろうし、武器を取り上げる事を忘れるなんて在り得ない。リディカは震えを必死に抑え、声を絞り出した。
「遊んで無いで……さっさと、殺したら良いでしょ……」
腰にある手錠に触れる。それだけで少し落ち着ける気がした。倒すのは無理でも、隙のひとつ位は作れるかも知れない。
「それとも犯す?そんな事で私は動じないから」
実際動じない筈は無いが、何でも良いから気を紛らわせるものが欲しかった。気丈に振る舞える振りだけでも良い。内心震え上がって居るのも感付かれては居るだろうが、其処につけこませる訳には行かない。
「……へぇ。殺されるより犯される方が嫌なんだ」
「う……るさい……ッ!」
ディアーニオはリディカの手錠を掴み、引き寄せる。吐息が触れる程の距離で囁いた。
「俺の核はね、此奴を首に引っ掛けるだけで潰せるんだよ」
首元の縫い目が開き、目玉が露出する。奴のアトミスはこれらしい。自らの弱点を教えると言う事は、それだけ舐められて居ると言う事だ。そもそもこんな目立つ所にアトミスを置くこのディアーニオは、相当な力と自信がある様子。
「出来る様になるまで生きて居られると良いね?」
突き飛ばす事も出来ず、膝を着きそうになるのだけを必死に耐える。恐らく脚は震えて居るだろう。停止しそうな頭を何とか繋ぎ止め、流れそうな涙を堪える。声が上擦りそうになりながら自分に言い聞かせる様に言葉を吐き出した。
「逃がす気は……無いんでしょ……」
「無いね。するのはもっと酷い事」