【カルチェ】
独りで帰りを待つのは寂しい。帰って来た所で何かある訳では無いけれど。骨だけになった左手を見る度にこの先どうなるのかと不毛な事を考えてしまう。彼女の行く先が間違って居ると決めたのは大衆であり、カルチェ自身はそれを否定した。けれど少しだけ、後悔した。自分の良い路を進んだ筈なのに、こんなに満たされないとは思わなかったから。
「お帰りなさい……」
獣の姿をした愛しい悪魔は、鉄錆の匂いがした。
「また引きこもってたのか?貴重な時間なのに……あぁ、お前弱いから犯られちまうもんな」
昼間は外には出られない……生粋の悪魔ならば。カルチェはそうでは無い。陽の下に出るのは少しだけ苦しいが、殺されるかも知れない暗闇よりは幾らかマシだ。馬鹿にした様に笑いながら、アイナは酷く傷んだソファの上に何かを転がした。その何かが動いた気がして、近付いてみる。
「……!」
布の塊に見えたそれは、無造作にくるまれた人間の赤子。カルチェは心臓が止まりそうになった。人間もそうで無い者も、種族が交わる世界では暗黙のルールがある。破った者に何処からどんな罰則があるかは知らないが、兎に角そう言うものは存在する。
「お前の玩具にと思って持って来た。嬉しいだろ?」
《未成熟な個体に危害を加えてはならない》
人間の喰べるものなんて知らないし、どんな風に生きて居るのかも知らない。まして、自立も出来無い赤子なんて。玩具にしては随分と難易度が高過ぎる。もし死なせてしまったら、未知の罰則を受けるのは誰なのだろうか。連れて来たアイナ?死なせたカルチェ?一体誰から受けるのか?それすら解らない。
「コレ……大丈夫なの……?」
「何が?」