【リディカ/フィロゾ】
逃げる場所が無いから自由に出歩く事が出来るのだが、当初考えて居た脱出の為の情報収集はそう簡単では無かった。存在するディアーニオの殆どは低級であり、知能が備わる者はそう多く無い。そう言えば、とリディカは思い出した事があった。先日耳にした【賢者】と言う存在。話が通じるかは解らないが行ってみる価値はあると思った。意外にも、と言うべきかアイナはその居場所を簡単に教えてくれた。そうして辿り着いたのは、見た事も無い植物が無数に絡む廃墟が建つ広い空間。蔦に縛り上げられる様に緑色の何かが其処に居る。少女の様に見えるがやはりディアーニオであろう。彼女(?)は拘束されたまま、生きて居るかの様に絡み付くものに犯されて居た。
「あー……ぁー……」
壊れかけて居るのか、その反応は稀薄だった。肉割には何本もの植物らしき何かが潜り込み、絶えず蠢いて居る。少し離れた場所に居るリディカにもその淫音が聞こえる程に。ヒトで無くともこの手の光景はやはり嫌なものだ。少女の姿をして居るのだから尚更。
「何だ、お前は」
少女に近付いた時、何処からか声がした。
「……姿が見えないけど」
「目の前に居るでは無いか」
そうして、廃墟自体が本体であると理解した。賢者と言うだけあって会話は出来るらしい。何処までの情報を持って居るのか、それを何処まで渡してくれるのか。出来るなら敵は増やしたく無い。賢者もリディカが人間だと言う事を短い会話から読み取ったらしく、そう言った詮索はして来なかった。
「……うー……あー……」
賢者はリディカの視線に気付いた様で、少女を犯す蔦を止めた。少女は胎内を駆け巡る感覚に震えながら口元に伸びた蔦をくわえ、愛おしいものを見る様に廃墟を見上げた。
「此奴は繁殖の器、お前の様なニンゲンでは無い。ニンゲンは直ぐ壊れてしまうから使い物にならないのだ」
器と呼ばれたそれは再び突き上げられ、肉割から黄緑色の液体が溢れる。蔦が緩み、それは地面に降りた……と言うか落ちた。地面に滴る黄緑色の液体を綺麗に舐め取り、そうして壁に、もとい賢者に身を寄せ、何か訴える様に呟いて舐め始める。その様子は動物の子供が親に食料をねだる姿に似て見えた。当初は淡々と廃墟の子を生産するだけだったが、雌らしい姿やそれに至るまでの仕草と声、感覚は器自らが徐々に学習したものらしい。あれだけの責めを受けて稀薄な反応しかしなかったのは、学習しながらであるからとか。この植物型の何かは単なる真似事では無く、生物の胎内まで再現しようと何故思ったのだろう。
「っん……うぐぅう……」
器は苦しそうな呻き声を上げ、卵の様な球根の様な不気味な何かを幾つも産み落とした。しかし我が子であるそれには目もくれず、賢者に次をとせがむ。この凌辱と産卵は、賢者と器が存在する限り永遠に続く様だ。口に太い蔦が捩じ込まれる。
「以前試したのだが」
文字通りの串刺しだがそれは恍惚の表情を浮かべて居る。本体に擦り寄り、誘う様にゆったりと体をくねらせた。
「ワタシ以外に犯されても何の反応も示さないのだよ。種も無駄になるし」
一連の話と行為に吐き気がする。器が勝手に学習したのか調教されたのかなんてどうでも良い。それを楽しんで居る事に嫌悪感を抱かずには居られない。姿は違えど、やはり奴等は肉体的に交わる事を第一に考えて居る。本当に繁殖の為だけならばあんな学習はする必要無い筈だ。
「所で。何か用があったんでは無いのかな」
「……そう、貴方に聞きたい事が」
何処からか現れた蜘蛛の様な何かが、産み落とされた卵らしきものを回収して行く。それが視界に入らない様に廃墟を見上げた。
「此処を出る手段があるなら教えて欲しい」
出来るか否かは二の次。リディカがアイナを殺して此処を出たい事は誰もが知って居る筈で、当然この賢者にも伝わって居るだろう。
「成程成程。先に言って置くが、ワタシは嘘が嫌いだ。お前は嘘を吐かないと誓え。無論ワタシも真実しか言わない」
ディアーニオの言う事等信じられんだろうが、と廃墟は言った。