近いものがあったから、引き寄せられた。理解はしたが、いざ遭遇してみると妙な気分だ。此処は敵の精神世界で、彼がその気になれば簡単に殺されると言うのに、何故だか居心地は悪くない。 しかし、何時までも此処に留まる訳には行かない。目の前に居る、この世界の主の気が変わらないとも限らない。
「(誰かが現実に引き戻してくれるのが一番良さそうだけど……)」
部屋には誰も入るなと言ってある。こんな時ばかりはそれを後悔した。
「(これを期に……もっと開放的になろうかしら……)」
冗談めいてみるが、ちっとも面白く無い。誰かさんのギャグと同レベルか……と、少し悔しくなった。
「Azarath……Metrion……Zinthos……」
眼を閉じて、何時もの様に呪文を唱えてみる。既に精神世界に居るからか妙な気分だが、ただぼんやりして居るよりはマシだろう。集中する事で、元居た自分の世界に帰れるかも知れない。
「Azarath……Metrion……Zinthos……」
無機質な視線を感じる。無駄な事だと蔑む眼で見下して居るのだろう。相手にしたら駄目、もう先程と同じミスはしない。
「あぁ、そうだ……良い事を教えてやろう。タイタンズも大いに関わる事だ」
「邪魔しないで」
スレイドを見もせずに退けようとしたが、彼は構わず話し続ける。
「まぁそう言うな。特に、君には関わりの深い事では無いのかな?世界の終りと言う奴は」
レイヴンは呪文を唱えるのを辞めた。正確には、辞めずには居られなかった。それを読み取ったのかスレイドが嫌らしく眼を細める。
「君が考えて居る事と同じだ、レイヴン。何れやって来る……その日の事」
「待って、何処まで知って……」
言い終える前にレイヴンの体は黒い粒子へと変わり、其処から消えた。
「……脱したか。運が良いな」