誰かに呼ばれた気がして、声の方に手を伸ばす。無機質な、けれど優しい冷たさがその手に触れ、宙に浮いた様な感覚がゆっくりと終りを告げる
─────────。
瞼の向こう側に人影がある。ゆっくりとそれを開くと、見慣れた顔が覗き込んで居た。彼はレイヴンの名前を何度も呼びながら、彼女の肩を掴んで軽く揺すって居る。
「……サイボーグ……?」
呟く様に名前を呼ぶと、その表情が一瞬明るくなった。が、直ぐにしまったと言う様なものに変わり、視線が落ち着き無く扉とレイヴンを行き来し始めた。
「あぁあ、いや、その……幾ら呼んでも返事が無かったから、勝手に入ったんだ。てっきり瞑想に夢中になってんのかと思ったら、倒れてたから……」
肩を借りながら起き上がり、倒れて居たのだと再確認した。精神が抜け落ちて居た所為か、体が重く感じる。何時もならそんな事は無いのだが、自分以外の世界に飛ばされるのは精神は元より肉体の方にも負担が掛かる様だ。
「すまねぇ、部屋には入るなって言われてたが……その……心配で」
サイボーグは言葉を詰まらせながら、彼なりの意味を込めて謝罪する。部屋に勝手に入った事、瞑想中だったかも知れないレイヴンを起こした事……。レイヴン側にしてみれば救世主だったのだが、彼がそんな事を知る筈も無い。
「……帰れないかと思った……」
現実世界に戻って来れた事が身に染みて来る。その安心感から出た言葉だったが、意味を解る者はレイヴン以外には居ない。
「帰れない?何処から?」
精神世界の存在すら、知る者はそう居ないのだから仕方が無い。
「……良いの、何でも無い」
大丈夫か?と言いた気な表情で、サイボーグが眼を細めた。