何方からとも無く立ち上がる。 元々出入りして良い部屋では無いからか、居辛くなって来たらしい。じゃあ、とサイボーグは部屋を出て行こうとした。
「……有難う、サイボーグ」
「え?あぁ……」
後ろ姿に声を掛けると、曖昧な返事が返って来る。レイヴンの言葉を殆ど理解出来て居ないのだから、当然なのだが。
……そして何時もの、独りの部屋。 先程までの体験は、生身で感じたものの様に憶えて居る。ふと、会話の途中で引き戻された事を思い出した。
(君が考えて居る事と同じだ)
朽ちた機械帝国の主が何を言おうとして居たのかは最早解らない。例えば此方の世界で問い詰めたとしても、恐らく答えないだろう。しかし、レイヴンに取ってはとても重要な……嫌な事の様に思えた。
「(皆には黙って置こう……余計な心配事を増やすだけ)」
理解し難い事を話しても、混乱を招くだけだ。アレも何時もと同じ、墓穴を掘らせる為の言い回しだったのかも知れない。
(何れやって来る……その日の事)
「現実世界に帰って来れたもの……もう問題は無い筈、でしょ」
自分に言い聞かせ、薄暗い部屋を出て行った。
【INVISIBRE WORLD/END】