悪魔の胎内を巡る長い長い通路を昇りながら、ボルトマンはぼんやりと考えて居た。ジェネラルストーンを受け取ったあの瞬間から、彼の世界は激変した。それまで呼吸をして居た自分はいとも簡単に霞み、塗り潰され忘れてしまう程に。文字通り生まれ変わったのだとすら思える。元の自分はこんなにも好戦的であったのだろうか。血の味を憶えてしまった今はもう思い出せない。 自身だけでは無く、前を行く超人の事も。只の伝説であると思って居た悪魔超人が目の前に現れ、更にタッグパートナーである事に未だ夢を観て居る様な不確かな感覚が消えずにあるのだ。つい先刻、ブラッドエボリューションズとの試合を終えた所だと言うのに。
「……なぁ、アシュラマンよ」
自分には想像もつかない過去を背負って居るであろうその姿は、今も遠い存在である事は変わらない。かの恐怖の将を甦らせる役目は彼が居てこそなのだから。アシュラマンはボルトマンの呼び掛けに返事をするでも無く、軽く振り返っただけだった。
「あんたと組める事に、俺は本当に感謝してるんだ」
恐怖の将の意思なのか、アシュラマン自身の意思なのか、只の偶然か。そのどれであったとしても。不意に立ち止まり、アシュラマンは声の方に向き直った。
「ハァ?突然何を言い出すのかと思えば……」
悪魔六騎士と呼ばれて居た頃、彼のタッグパートナーは同じく六騎士のサンシャインだった。それから約一世代分の時が経ったとは言え、パートナーが変わる事に多少なりとも違和感はあっただろう。アシュラマン自身にも長期のブランクがあり、新たな相手は同じ悪魔超人でも、自身ともサンシャインとも全く異なる末端の無名超人。現在の超人強度で言えば同程度ではあるが、本来ならば有り得ない事である。
「タッグだけの話じゃあねぇ。俺が悪魔の種子に選ばれた事自体が奇跡だろうが」
「此所に居るのがお前で無かった可能性か。どうだろうな」
様々な理由の元、迫害される超人は常に一定数居る。統治して居た存在が無くなった事で魔界は荒れ、その数は更に増えた。救済を待つ者、力を欲する者、或いは死に向かう者。恐怖の将復活の糧として、ジェネラルストーンは悪魔の種子を選んだ。暗く冷たい過去故に、強い憎しみと実力を秘めた精鋭を。
「まぁ……私が完全復活出来たのはお前のお陰でもある。他の奴等ではそれが勤まったかどうか」
ジェネラルパラストから見渡す風景は、それなりに美しいものに見えた。これを観て人は泣いたり笑ったり、感動したりするのだろう。しかし数日後、此所を中心に世界は血に染まる。正義超人の命に寄って、全ては恐怖の将復活の贄として。
「……そう言って貰えるだけで充分。役に立てて光栄だ」
しかし、惜しいとは思わない。人間やこの世界に愛着等は無く、寧ろ憎しみすらある。悪魔の種子は自らを迫害した者達への報復を恐怖の将復活に託して居るからだ。眼下に広がる景色を、アシュラマンは退屈そうに眺めて居る。正義超人殲滅も、彼に取っては単なる余興に過ぎないのかも知れない。各々の思惑と共に、時間はゆったり流れて行く。暫しの後、あの歌が聞こえるまで。
【VERSERK】