「(何故だ……何故……ナゼ……)」
変身時間が切れ、ウォッチの中へと戻って来たアップグレードは、何時もと違う空気を感じて居た。胸の辺りがざわざわする様な、不穏な空気。嫌な予感とでも言うのだろうか。
「静かだな……」
何時もなら誰かが帰って来れば必ず駆け寄って来る筈のワイルドマットの姿が無い。今アップグレードが帰って来たと言う事は、ウォッチは暫く使えない。故に誰かが出て居る事は在り得ない。全員居る筈なのに、不自然に静かだ。
「誰も……居ない……?」
他のエイリアン達もこの空気を感じ取り、治まるのを何処かで待って居るのだろうか。
殺気にも似た、異様な空気。
「(何故……だ……)」
不意に、背後に気配を感じて振り返る。
「ゴーストフリーク……?」
幽霊の姿をした灰色の体がゆらゆらと揺れて居る。彼は不気味な一つ眼を動かし、アップグレードを見た。眼が合った瞬間、ぞくり、と。背中に冷たいモノが走った様な、嫌な感覚。ゴーストフリークの一つ眼は恐ろしく冷たく、強い苛立ちを称えて居た。
「よぉ……外はどうだった……」
意外にも落ち着いた声で、彼は問い掛ける。ゆっくりと、アップグレードとの間を詰めながら。
「……貴方こそ、どうかしてしまったんですか……?」
ふっ、と嫌な笑いを溢し、ゴーストフリークはアップグレードにずいと近付いた。アップグレードの体が微かに震える。読み取りにくい表情の奥底に浮かぶ、恐怖。
「俺は外に出たいんだよ」
「外?」
あぁ、と軽く返し、ふわりと宙を舞う。アップグレードの、ある筈の無い心臓が激しく脈打つ。
「オムニトリックスが宿主を見付け、やっと外に出るチャンスが来たって言うのに」
先程とは打って変わり、苛立ちに満ちた邪悪な声で。
「あの野郎……」
ゴーストフリークの体の下で黒と白の触手が気味悪く蠢くのが見える。彼の感情をそのまま映した様な、不気味な姿をちらつかせて。
「宿主が貴方を呼び出したからと言って、自由になれる訳では無いでしょう……私達は彼に縛られたままです」
灰色の背中に問い掛ける。瞬間、ゴーストフリークの体から触手が伸び、その一本がアップグレードの体を貫いた。反動でよろめいたが、ダメージは無い。液体金属の体は難無く触手を飲み込む。ゴーストフリークはアップグレードに向き直った。