「俺はなぁ……何かに憑依して居ないと陽の光にすら当たれないんだよ……」
一本、また一本とグロテスクな黒い触手が白い体に突き刺さる。
「折角完全体になれるのに」
どろり、と黒く重たいアップグレードの体が流れ落ちる。
「あの野郎は俺を呼び出さない」
抜け出そうと、振り払おうとすればすぐにでも出来る。何をした所で、液体金属の体を其処に傷付ける事は出来無い。だが、アップグレードはゴーストフリークを退ける事が出来無かった。
彼の気持ちが、願いが重過ぎて。
「あぁあ……完全体……に……!」
「ゴーストフリーク」
苛立ちに満ちた紅い瞳を宥める様に、アップグレードは穏やかな声で。大きな一つ眼が、ゴーストフリークを捕えた。
「貴方の気持ちは解ります。私もそれ程、呼び出されませんから。けれど……」
触手がぴくり、と動いた。
「貴方も私も《此処に居る》では無いですか。こうして、意思を持って《存在》して居ます」
「……」
暫しの間があり、ゴーストフリークが触手をゆっくりと引き抜いた。体の黒いラインを伝い、体内に引き戻されて行く。アップグレードも、流れ落ちた体を元の形に戻した。
「俺はそれだけじゃ満足出来無い……お前に俺の《中》は解らない。永遠にな……」
くるりと背を向け、ゴーストフリークは飛び去った。この不穏な空気の発生源がゴーストフリークである事は、間違い無い。だが、彼が去った今も未だ消えない、嫌な感覚。
「アップグレード……」
低く怯えた様な声に振り向くと、ワイルドマットが此方を覗いて居た。彼はアップグレードに擦り寄ると、静かに言った。
「彼奴、元気無い……の?」
「大丈夫、すぐに何時もの彼に戻ります」
オレンジ色の体毛を撫でてやると不安気に頷き、ゴーストフリークの飛び去った方に頭を向けた。嫌な予感が、拭い切れない。