【Knight】
其処に、立って居た。
紅黒く澱んだ空気と、それを震わす幾多の悲鳴、悲鳴、悲鳴。脳髄を抉られる様な不快なそれが止む事は無い。聞きたく無い、触れたく無いのに、それは叶わない。耳を塞いで眼を閉じれば良いだけのごく簡単な事なのだが、出来無い。自身の闘争本能、防衛本能がそれを許さなかった。
逃げ惑う影が眼の前を横切った。音も無く機械的に狙いを定め、無防備な背に無数の刃を撃ち込む。短く悲鳴が上がり、それは力無く倒れ込んだ。暫くは手足を動かして居たが、大人しくなるまでそう長くは無かった。ゆっくりと、絶望に支配された地面を歩いて行く。銃弾か何かが体に数回当たったが、然して気にする事では無い。そんなモノでは傷の一つも付ける事は出来無いのだから。銃弾が飛んで来たと思われる方向に腕を振り、数発の刃を飛ばした。どさり、と何かが落ちる音がしたが、眼を向ける事も無く歩き続ける。もう何度も何度も見た光景だろうから。不意に気配を感じ、振り向き様に斬り掛かる。一匹のエイリアンが飛び掛かって来た所だった。振り被った刃は彼の下腹部に当たった。鋭く光る刃が柔らかな肉に喰い込み、引き裂く。悲鳴を上げる間も無く、驚愕した表情のそれは刃が深々と突き刺さった己の体を見下ろし、地面に落ちた。生温かい血液が飛び散り、透き通る翠色の肌に降り掛かる。顔に飛んだそれを無意識に舐めてしまい、表情を曇らせた。
「最悪だ……」
斬り捨てたエイリアンは既に絶命したが、神経か何かの作用だろう、未だ僅かに震えて居る。小さく溜息を吐き、その頭部を踏み潰してその場を後にした。
何の意味が在ると言うのだろうか、この殺し合いとその……