彼は黙って聞いて居た。本来ならば決して漏らしてはならない弱音を、咎める事も無く聞いて居た。暫しの沈黙の後、
「解って居た」
そう、切り出して。
「何時かは折れるのではと。虐殺染みた命令も、お前には重過ぎる事も解って居た。戦場では相手を殺す事は出来ても、倒す事は出来無いからな」
驚く程穏やかで、優しい声。
「解って居たならば何故……止めてくれなかった……」
「お前は全てを真に受け過ぎる。そして……優し過ぎる」
唐突に、恐怖とも取れる程の殺気を感じ、瞬間、反射的に右腕の刃が自らを護った。何事かと眼を開けると、幾重にも重なった巨大な刃が振り下ろされて居た。眼で確認したと同時に、凄まじく重い衝撃が降って来る。受け方を間違えば体は一瞬で砕けるだろう。
「うっ……何……を……」
ギリギリと刃同士の擦れる嫌な音がする。その向こう側で、彼は突き刺す様な視線を向けて居た。殺される……と、本気で思った。
「……お前で無ければ、今頃真っ二つだ。無駄には出来んな」
ギン、と弾き返され仰け反りそうになったが、何とか堪える。そのたった一撃に、私の息は上がって居た。戦場で受けたどの攻撃よりも恐ろしかった。彼は刃を引き、その腕を軽く擦りながら言った。
「お前には……じきに新しい指令が下るだろう。それを全うするんだ、お前の全てを掛けて」