【××me,××me.】
透き通る翠色の破片を手に取った。キラキラと輝くそれを、様々な角度から見てみる。薄暗い部屋の僅かな光を反射し、穢れも嘘も全てを見透してしまう様な、真っ直ぐで純真な輝きを放って居る。同時に吸い込まれてしまいそうな、神秘的……いや、背徳的な輝きにも見える。
俺が、穢れてるから。
自分とあの人は違い過ぎると解って居る筈なのに。
破片を握り締めると、どうしようも無く消えたくなった。正確には、死にたくなった。小さく溜息を吐き、それを腕に向けて振り降ろす。ざくり、と刃が薄い肉を裂き、生暖かく気味悪い血液が流れ出した。鋭い痛みが少しだけ、欲求を和らげる。その感覚が心地好くて、貪る様に何度も何度も突き立てる。眼を閉じると、真っ暗闇にあの人がぼんやりと浮かぶ。
あの人に向かって手を伸ばす。俯いて居たあの人がゆっくりと顔を上げ、金色の眼で俺を見た。その眼は冷たく凍り付いて居たが、俺が映り込むとそれが微かに弛んだ様に見えた。瞬きをした、その一瞬。
「 」
遠くに居たあの人が、直ぐ近くに居た。その右腕には、見憶えのある気味悪い色がべったり着いて居る。不意にゴトン、と音がして、足元に視線を落とすと腕が落ちて居るのが見えた。良く知って居る形だ。背筋がぞくり、と冷たくなる。あの人は腕を軽く振って血を払い、新たに刃を生み出す。その刃がギラリと妖しく光り、あの人が優しく微笑んだ。血が……返り血が、あの人の翠色を染めて行く。包帯が千切れ、肉片がボロ布の様に飛んで行く。あの人は返り血を拭いもせず、刃を振るい続ける。嘘臭い薄笑いを浮かべながら血塗れになって行くあの人は、酷く美しく見えた。ドン、と、一際重い衝撃が腹部にのし掛かり、腹を抉られた俺は仰向けに倒れた。あの人が俺を見下ろす。金色の眼を細めて笑うと、小さな刃が俺の喉元に突き刺さった。
あぁ……何て……
何て、心地好い……
「……っ」
暗闇をゆっくりと払う様に眼を開ける。破片は傷口に捩じ込まれ、翠色はすっかり見えなくなって居た。包帯は血の色に染まり、床に小さな血溜まりが出来て居る。……深い溜息。現実になんて、在り得ないのに。あの人はあの人に不要な、否、宿主のそれ以外に殺しはしない。好まないのも知って居る。
でも。
だけど。
この穢れ切った体を斬り刻んでくれるのは、あの人じゃ無きゃ駄目なんだ。
お願いだ
俺を殺して
俺を殺して
ころして
コロシテ……
【××me,××me./END】