暗い。
暗い。
暗い。
暗闇は苦手だ。怖いから……では無い。断じて無い。閉じ込められて居る感じがするから。押し潰される様な圧迫感と、内側からじわりと侵食される様な、重たい空気。元々夜目が利かない為、暗闇で走り回るのは危険なのだ。この部屋がどの程度の広さかも解らないのに。しかしじっとして居る事に飽きてしまい、何も見えないと解って居ながら辺りを見回してみた。出来るだけゆっくりと動き、壁までの距離を歩いてみる。方向感覚も良く解らないが、やはり余り広い空間で無いらしい。壁はすぐ其処にあった。
「先ず……此処は何処なんだ?」
壁の向こうから何か聞こえないかと、壁に張り付いてみる。暫くそうして居ると、微かに声が聞こえた。何を言って居るかまでは良く聞き取れないが、聴き憶えの無い声である事は何と無く解る。
「んん……良く聞こえないぞ……もっとデカい声で喋れよな……」
恐らく此方の声も同じ様に、もし聞こえても出して貰えるとは思えない。外に居るあの声は十中八九、彼を此処に連れて来た者だろうから。
「何だ?急に騒がしく……」
何かが暴れて居るのだろうか。何と無く聞こえるのは抑えろ、とか危ない、とか……重たいモノがぶつかる音や、獣か何かの咆哮らしきものが聞こえ始めた。暴れ序でにこの壁を壊してくれと思ったが、叶う筈も無い。
「(助けて!助けて!!)」
「……?!」
不意に背後から電子音がして振り返る。……が、暗闇意外には何も見えない。微かではあったが再び電子音が聞こえたかと思うと、壁の向こうと似た様な声が話し掛けて来た。
「すまないね、こんな所に閉じ込めてしまって」
「あんた誰だ?」
相手の姿は見えないが、此方の姿は見えて居るのだろうか。じっと見られて居る様な、嫌な感じ。
「さっきのは……」
「聞こえて居たのか。アレはバルディマンサー。あぁ言う知能の低いのは扱い辛くて嫌だよ、全く」
「バルディマンサー?」
唐突に、何かに首元を掴まれたかと思うと床に捩じ伏せられた。彼の感覚からすればそう速い訳では無かったが、不意打ちであれば充分に抑え込む事が可能な力があった。ギリッ、と締め上げる音が聞こえる。
「大人しくして居てくれよ、殺してしまっては意味が無い。君位の知能が在れば解るだろう?」
気分は悪いだろうが、と。姿無きそれは彼の体にのし掛かり、何かの道具を取り出した。
「ぅ……っあぁあ……あ……」
遠退く意識の中、暗闇を薙ぎ払うかの様な明るい黄緑色の光を見た気がした。