暗くて何も無い、冷たい闇の中。 常人なら数時間で気が狂うかも知れない……常人なら。けれど、闇の力を操るレイヴンに取っては酷く心地好い。体がふわふわして、ひんやりした闇に包まれて居るこの時が一番幸せ。勿論、仲間と過ごす時間が嫌な訳では無い。温かくて優しくて、居心地は悪くない。けれど、レイヴンは元々他人との馴れ合いが苦手であり、何より彼等の世界は明る過ぎるから。どうしても越えられない壁が、其処にある。
暗くて、静かで、冷たい。こんな空間が彼女には丁度良かった。
何処までも続く、深い深い闇。どんなに進んでも、冷たい闇しか無いのは良く知って居る。果ての無い闇の中にずっと居られたら……広過ぎる程広いこの空間に、たった独りで居られたらどんなに楽なのだろう。そんな下らない事を考えながら、深い闇に向かって歩いて行く。 周りに景色と言う程のモノは何も無い。真っ暗な空と、先の見えない朽ち掛けた石の一本道、崩れたオブジェ。元が何だったのかは最早解らない。 数羽の鴉が、気味の悪い鳴き声を上げながら飛び去って行く。どれも四つの真っ紅な眼をギラつかせ、少ない獲物を捜して居る様だ。 この光景が美しいと言えば、そうかも知れない。どの世界も、退廃してしまえば等しくこうなるだろう。全ての行く末を見て居る様で、不思議な気になる。
「(世界の……行く末?)」
何処かで聞いた言葉だっただろうか。不自然に引っ掛かる様な、余り良くない感じがする。物事をマイナスに考えてしまうのは、自分の悪い癖だ……きっと、ビーストボーイが何時か観ていた映画の台詞か何かだろう。彼はその手の作品が好きだから。 レイヴンはそれを祓う様に頭を軽く振り、小さく深呼吸をした。
「Azarath……Metrion……Zinthos……」