「こんな日が来るとはねぇ……幾ら僕でも考え付かなかったよ」
クスクスと笑いながら、灰色の小さな手がペンを走らせる。サラサラと書き出される文字はとても小さく、その形も酷く奇妙なものだ。それが読めるのは彼、グレイマター本人だけ。彼の日記帳には、その小さな暗号がびっしりと並んで居た。
「向こうはきっと潜在的に、朧気にしか解らないだろうけど……いや、憶えても無いかな」
エイリアンの中には、種族間での関係性を持つ者が少なからず居る。敵対して居たり友好的であったりとその理由は様々だが、オムニトリックスと言う狭い空間の中でそれは無意味に等しい。故に、記憶の中に留めて居る者はそう多くない。本能として刷り込まれて居るなら別だろうが。
「まぁ当然と言えばそうかもね」
パタン、と日記帳を閉じてゆったりと背伸びをしてから、椅子から飛び降りた。行くあては特に無かったが、部屋でじっとして居るのは彼には余りに退屈過ぎる。オムニトリックスの中は狭い空間ではあるが、少し考えれば暇潰しは幾らでも出来る。
誰かをからかうネタ捜し、とか。
今日は誰に何をしてやろうかな、等と考えつつ、のんびりと歩き出した。短い電子音と同時に部屋の扉が開く。今はヒーロータイムも無い様で、珍しくのんびりとした穏やかな時間が流れて居た。