何時も先陣を切って騒ぎ出すワイルドマットやヒートブラストの姿も無い。此方もまた珍しく昼寝でもして居るのだろうか。だとすれば、グレイマターに取っては好都合だ。彼はその小ささ故、ワイルドマットにでも見付かろうものなら確実に追い掛け回される。挙げ句の果てにはかじられて涎塗れにされてしまうのだ。
「見付かる前に……っと」
扉を背に辺りを見回し、オレンジ色の獣の姿が無い事を確認する。身の安全を確認して数歩歩き出したその時、背後から大きな影が自身を被った。しまった、と心臓が跳ね上がる。今日はのんびり出来ると思ったのに。ゆっくりと振り返ると、予想に反して黒い塊が立って居た。
「今日は静かですね」
黒い体に走る明るい黄緑色のラインと、大きな一つ眼。グレイマターは胸を撫で下ろした。
「ガル……いや、アップグレードか。脅かさないでよ……」
「安心して良いですよ、彼はワイルドバインと昼寝中です」
穏やかに笑いながらアップグレードは軽く屈んだ。グレイマターはその腕に飛び乗り、不思議な感触の体を昇って肩の辺りに腰を下ろした。
「……では何処へ参りましょうか、御主人様?」
「ふーむ……特に決めて無いから適当に行ってくれたまえ」
なんてね、と顔を見合わせ、二匹は笑った。