しかし、そのプライドは些細な切っ掛けで崩れ去る事になる。
「何してるんだ?」
黒い天井を見上げ、ぼんやりと立ち尽くす後ろ姿。グレイマターの声に、アップグレードはゆらりと振り向いた。電池の切れかかった様な、ぎこちない動き。明らかに様子が可笑しい。
「あぁ……グレイマター。何だか調子が悪いんです……」
本人は知らないだろうが、グレイマターは良く知って居る。兵器とは、言ってしまえば消耗品。長く使うには必然的にメンテナンスが必要になる。量産出来るのならば使い捨ても構わないだろうが、此処ではそうは行かない。彼は一体しか居ないのだ。それに、彼は今や兵器では無く、宿主が居る。壊れてしまってはその役目を果たせなくなってしまう。
「其処に居ると呼び出しがあった時に邪魔になる、見てやるから場所を変えよう。未だ動けるね」
「はい……すみません…」
体を引き摺る様に、アップグレードはゆっくりとグレイマターに付いて行く。グレイマターの小さな歩幅に合ってしまう程、彼の動きは遅かった。
オムニトリックスに取り込まれる時にわざわざ体内構造を弄ったとは思えない。元が消耗品である事を考えると、この状況は大いに頷ける。メンテナンス箇所も容易く想定出来たが、まさか此処でやる事になろうとは。二匹が立ち止まると電子音が小さく鳴り、白い扉が開いた。