主人の後方から青年を見て居たルーテナントは、彼の真っ紅な三つ眼を凝視して居た。人間で言う所の《血の様な紅》。あのまま取り出せたらさぞ美しいだろう……と、恍惚に表情が歪みそうになる。
「あぁ……思い出した。確かに逆らいはしなかった。服従もしなかった。だから消したのだ。何処か府に落ちぬか?」
「(虫の居所の悪さも……確か)」
ヴィルガクスが言い終るが早いか、耳障りな音と共に青年を抑えて居たクルーが吹き飛ぶ。青年は拘束具を破壊し、その勢いで自身を挟む様に居たクルーを殴り飛ばしたのだった。
「あぁ……納得出来無いね」
ロットオージェスは怒りを糧に戦闘力を高めると言う。事実か否かは知らないが、下らぬ感情も拘束具を破壊する程の、と言う事か……と思考を巡らす。とすると、今の戦闘力としてはかなり高まっている筈。逆に考えれば感情で動いて居る為、複雑な動きは出来無いだろう。それ程の余裕は、恐らく無い。
「貴様、賢くは無いな。こんな愚か者が残ってしまっては、死んだ仲間も浮かばれんと言うものだ」
ヴィルガクスは紅い眼の青年を見据え、言い放つ。怒りに身を染めた青年が地を蹴った瞬間、その姿が消えた。
「……っ!」
直後、ヴィルガクスの背後に白い影が現れた。攻撃体制に入った青年が長く鋭い爪で引き裂こうと、腕を大きく振りかぶる。
「死ねッ……!!」
爪がヴィルガクスを捉え、緑色の皮膚に突き刺さる瞬間だった。がくん、と唐突に視界が引き下がる。同時に右脚に強い痛みが走る。
「姿が見えなくとも……その眼が目立ち過ぎるわ」
床に叩き付けられ、呼吸が止まりそうになる程の衝撃が体中を駆け抜ける。直ぐには引きそうも無い鈍い痛みに耐えながら、無理矢理体を起こす。右腿辺りから血が流れて居るのが見えた。