ウルフの視線の先には、ビクターの部屋の扉。先程のXLR8の言葉から察するに、勝手に入って追い出された事を想定するのはそう難しく無い。ウルフは扉を二回、ノックした。
「ビクター、僕だよ」
暫しの間の後、短い電子音と共に扉が開きビクターが顔を出す。いい加減にしろ、と呟いたが、ウルフは何も知らない振りをして軽く肩を竦めた。
「……用が無いなら呼ぶな」
「まぁそう言わないで。また悪い癖が出てるんじゃ無い?」
ビクターは小さく溜息を吐き、そう広くない部屋の真ん中辺りに座り込んだ。何か作業をして居たのか、細かい部品や色々な物が散らばって居る。ウルフは少し離れた所に腰掛けた。
「そんなに気ィ詰めなくても良いんだよ?彼奴等だって、僕等の事を敵だなんて思っちゃ居ないさ」
ウルフの言葉に、彼を見る事も無く、ビクターは静かに答える。
「俺はお前程器用でも無いし、柔軟性も無い。お前だって全てを忘れた訳では無いだろう」
わざとらしく考える素振りをして、ウルフは何度か頷いた。
「ん……まぁね」
今の宿主を恨んでは居ない。他のエイリアン達も、憎くは無い。だが何と無く……何かが足りない様な気がする。
「お前に取ってのマスターは?此処に居る以上はあの子供がそうだろ、もうあの方じゃ無い。解ってる癖に」
……そう、解ってる。
経緯がどうであれ、今の主人はあの人間の子供。記憶があろうが無かろうが、かつての主人はもう傍には居ない。彼に依存して居た訳では無かったが、足りないものは恐らくそれだと気付くのに時間は掛からなかった。