「別にさ、宿主の考えに賛同しなくても良いと思うんだよね。僕等の意思が届く事は無いんだし」
ウルフもビクターも、かつての主人であったゴーストフリークが過去に反乱を起こした事は知らない。仮に知って居たとしても、エクトノライト以外の種族に出来る事では無い。つまりは彼の様な特性を持たない限り、宿主に自らの意思を伝える事は不可能なのだ。
「何が正しくて何が間違いかなんて、種族が違えば共通する事は少ないからな」
「御名答。流石、解ってるね」
ウルフは目の前に転がって来た小さな歯車を拾い上げ、ビクターに投げて寄越す。眼で追って居たビクターは、飛んで来た歯車を空中で掴み取った。
「何かが足りないなら、代わりを見付ければ良い。お前には難しいかもだけど。マミーを見倣いな、次を見付けたらしいから」
手元の作業に戻ろうとしたビクターは、ウルフの言葉に動きを止める。そして、寡黙な包帯男を脳裏に思い浮かべた。
「……彼奴の場合、それが良いのか悪いのかは解らんな」
あの死にたがり、今度は何に……と、その対象を少し哀れみながら、小さく笑う。しかしながら、ウルフの順応性の高さは見る度に驚かされる。此方は従う事と付き合う事の違いに、少しばかりだが戸惑って居ると言うのに。
「何時もそうやって壁作ってるのって疲れない?深く考えるのも悪くないけどさ、気楽に行く方が正しい時もあるんだよ」
何時ものお節介だけど、とか何とか言いながら、ウルフはひらひらと手を振って出て行った。
「……壁、か……」
そんなつもりは無いのだが。相手がどんな出方をするのか解るまで、疑って掛かる癖の所為だろう。それが自分以外の者には壁になって居る。解らない筈が無い。