レイヴンの能力。 闇の力を操る事……を指して居るのでは無く、ある程度の空間移動が出来る事。これを使う事で、本体の瞑想と共に精神は此方の世界に移動する事が出来る。
「僅かであれ空間を歪める、その能力だ。此方では制御し切れて居ないらしい」
スレイドが淡々と言い放つ言葉に、レイヴンは酷く蔑まれて居る様な強い苛立ちを感じた。 彼は何時もそう。思わせ振りな言葉を並べ立て、追い詰められた相手が墓穴を掘るのを待つ。射程圏内に獲物が自ら飛び込んで来るのを、じっと待って居るのだ。
「まぁそれは……君自身、理解して居なかった様だが?」
「何なのよ……知った様な口聞かないで!」
レイヴンは掴まれた腕を振り払い、苛立ちを吐き出す様に声を荒げた。混乱したままの頭では、スレイドの言葉を聞き流す事等出来る筈も無い。身を護る能力を封じられ、その原因すら解らない状態が、更なる苛立ちを誘う。頭の片隅では解って居る筈なのに、止まらない。
「自分の力をコントロール出来て無いって?!あんたに何が……っ」
唐突に、両肩に鈍い痛みとそれに続く冷たいものを感じた。その衝撃は混乱した頭を冷ますには充分で、一瞬時が止まった様に錯覚する。閉じた眼を開けると、其処には金色の仮面があった。逃げようにも両肩はガッチリと掴まれて居て、身動きすら取れない。 今度こそ殺される、と、恐怖に似た感覚が沸き上がった。相手を煽る様な事は、何時もなら絶対しないのに。
「は……なして……っ」
「未だ解らないか?此処は私の世界。迷い込んだのは君だよ、レイヴン」
ぞくり、と、冷たいものが体を駆け抜けた。解らなかった訳では無い。気付きたく無かっただけ。無理矢理突き付けられたそれに、レイヴンの中で張り詰めて居た何かがぷつり、と切れた。