「……馬鹿にしないでよ、気付かない訳無いじゃない。どうしてあんたなのかは解らないけど」
先程までが嘘の様に、頭がすっきりして居た。レイヴンの変化にスレイドも気付いた様で、興味深気に彼女を見下ろす。全ての力が封じられたこの状況では、警戒しても無駄な事に気付いたのだろう。大抵の不利益を受け入れる器を、彼女は持って居るらしかった。
「聞きたいんだけど。何故殺さないの?此処はあんたの世界で、私は何も出来無い。こんなチャンス、そう無いわよ」
スレイドは暫しの間を置き、レイヴンの気怠い眼を見ながら淡々と答えた。恐らく、彼女が望んで居るであろう答えを。
「つまらないから……とでも答えて置こう。そう死に急ぐ事も無い。それを望むなら別だがね」
そう、と短く返し、レイヴンはスレイドの傍に腰を降ろした。其処にはオブジェか何かがあった様な形跡があるが、座るのに丁度良さそうだったから。 改めて周りを見回すと、レイヴンの世界とはかなり違った風景である事に漸く気付く。彼方が瓦礫に埋もれた世界の終りならば、此方は朽ちた機械帝国と言った所だろうか。
「もう一つ。私の世界に帰るにはどうすれば良いの」
「其処までは私も知らない。誰かが君を現実に引き戻すか、君が自力で戻る方法を見付けるか……何方も憶測ではあるがな」
「要するに、今直ぐには無理って事ね……」
スレイドの言った事は、恐らく正しい。自分の全ての力をコントロール出来て居ないから、無意識の内に空間移動が暴発……と言っても、規模が小さかった為大した移動は出来ず、波長の近い場所へ放り込まれた。レイヴンの実力から推測しても、暴発はほんの僅かな部分だろう。
「まぁ安心したまえ。先程も言った通り、私は君に何もしない。殺す事も、追い詰める事も」
「……此処に居るだけで充分追い詰められた気分だわ……」