"001"
「お前の願いを叶えてやるよ」
突然現れた全身黒尽くめの男が、不適な笑みを浮かべて僕に言う。
「どんな願いでも叶えてやる、お前の願いは何だ?」
「願い事なんて何もないよ」
僕がそっけなく答えると、男は喉の奥で小さく笑う。細められた目は異様な程の輝きを放つ。僕はその瞳に吸い込まれる様な感覚に襲われ、顔を顰めた。
「願いも無いのに俺を呼んだって言うのか?遠慮せずに言ってみろ。金か?名誉か?それとも、誰か殺したい程憎い奴でもいるのか?」
男は僕を引き寄せ、耳元で囁く。ひんやりと冷たい男の胸が心地良くて、僕はうっとりと目を細めた。生気の無いごつごつとした長い指が、僕の頭を滑る。
「欲しい物なんて一つも無い…僕は貴方にあげたい物があって呼んだんだよ」
僕は男を見上げて、にっこりと微笑む。男は目の前の僕ではなく、僕の中を見透かす様な視線を向けていた。
「…俺が欲しいのは一つだけだ」
ややあって、男はゆっくり僕と視線を絡めて呟く。
「知ってる」
事も無げに言う僕に、男は少し驚いた様な顔をした。僕は男の頬にそっと手を伸ばす。僕が、それをあげる為に呼んだのだと囁き掛けると、男は僕の額にキスをした。擽ったさに笑みが漏れる。