”002”
「だが俺がそれを手に入れる為には、お前の願いを叶える必要がる」
柔らかな笑みを浮かべ、そう言って男は僕の頬を撫でる。
「何でもいいの?」
「ああ、それと見合うだけの願いなら何でもいい」
「そう…」
僕は一生懸命考えた。だが、やはり願い事は見つからない。何も欲しくは無いし、誰かに死んで欲しいとも思わない。だからこそ、僕はこの男を呼んだのだ。
「じゃぁ、今まで僕の関わった人達を幸せにしてあげて」
僕が思いつきでそう言うと、男は顔を困った様に歪める。仮令全員を幸せに出来なかったとしても、別にどうでもよかった。辺り障りの無い願い事。
「きっと足りないだろうから、見合う分だけでいいよ」
そう付け足して、僕はやんわりと微笑む。男は何とも言えない複雑な表情で、僕を抱える腕に力を込めた。冷たい男の体が、僕の体温を奪ってゆく。
「何で幸せにしてやるんだ?」
僕の耳元で、男が感情の読み取れない声音で囁く。僕は男の顔を見たくて身を捩るのだけれど、抱きすくめられていて叶わなかった。
「理由なんてない…ただ、他に思い付かなかっただけ」
諦めて僕は男の質問に答える。すると微かな笑い声と共に、男の腕はほんの少しだけ緩くなった。僅かに身を離し、僕は顔を上げる。直ぐ傍には、胸が暖かくなる様な笑みを僕に向けている男の顔があった。
「変わってるな」