”004”

「お前のを手に入れたのなら、綺麗な瓶の中に入れて、部屋で一番の場所に飾っておいてやるよ」
　僕の涙が止まるまで、ずっと優しく頭を撫でていてくれた男がそう呟く。穏やかな声音と、冷たい男の体温にまどろみながら、僕はそれを顔も上げずに聞いていた。
「…食べてしまわないの？」
　ふと沸き起こった小さな疑問を口にする。ちらりと覗き込んだ男の瞳は、今もまだ優しく細められていた。
「食べない、大事に取っておく」
　そう言って男は、大切そうに僕の頭を撫でる。仮令それが偽りでも、僕の為だけに吐いてくれた暖かい嘘なんだと思うと、凄く嬉しかった。他の誰もがしてくれなかったことを、男はみんなしてくれる。
「貴方も変わっているね」
　率直な感想だった。みんなはこの男を恐れている。僕も少しはそう思ってた。でも実際は全然違っていて、僕なんかにまで優しくする。だからこの男は、やはり変わっているのだと思った。
「仕方が無いだろ、綺麗なんだから…」
　僕の頭に頬を寄せて、男は諦めたとでも言う様にそう言葉を吐き出す。今まで誰にも目を向けてもらえなかったのに、綺麗な筈などなかった。
「もしかして、目が悪いの？」
　心配になって男の目許に手を伸ばす。僕のをあげてもいいと思った。ずば抜けて良い訳ではないけれど、傍にある物ぐらいちゃんと見える。僕がそんな事を言うと、男は小さく笑みを漏らした。
「どちらかと言えば、俺のは良過ぎるぐらいだ」
　きつく僕を腕の中に囲って、男はそっと囁く。僕は深く吐き出した安堵の息と共に、男の胸へと顔を埋めた。冷たい筈なのに、とても暖かい。