"001”
沈み行く太陽が海岸線を輝かせる頃。
昼間よりも少し冷たさを孕んだ風が水面を滑り、
穏やかな潮騒をこの洞窟まで運んでくる。
私は羽織をゆったりと纏い外へと歩みを進める。
汐の匂いが鼻を擽め、水分を多く含んだ風が髪を掻き混ぜる。
今や太陽は僅かな光を漏らすだけになり、空は濃紺に染まっていた。
向山の頂には下弦の月が昇っている。
好い宵の始まりだ。
――陽のある時は現世を生きる者の時間
――夜の闇に包まれる時は物の怪の時間
そう…私は宵の世に生きる者。
今日も生きる為に海辺で狩をする。
我名は【磯姫】
人の生き血を糧として生きる者。