"005"
「竜之進様、磯はもう辛抱なりませぬ…」
「お磯…私もだ。」
「竜之進様にお会いした刹那より、磯の心は竜之進様で一杯でごさいます。いっそ食ろうてしまいたい…」
「嗚呼…愛しいお磯。私はお前になら食われても構わん。」
彼は耳元でそう甘く囁き私の肩に口付けると、
ゆるゆると着物の上から背を撫でた。
私は彼の首に顔を埋め、軽く口付けてから、ゆっくりと牙を沈めた。
鋭い牙が彼の皮膚を破り、徐々に肉へと迫る。
「――うっ!!…あ……お磯…痛……」
遂に牙が肉へと届き、彼は痛みに呻く。
私の手の中でもがく彼をきつく抱き締め、更に奥まで突き刺した。
歯にぷちりと弾けるような音を感じ、そっと牙を抜いてゆく。
牙から染み出る毒が、傷付けた血管から全身に回る。
強張る彼の体を柔らかくし、急速に麻痺させるだろう。
餌とて苦しくは無い筈だ。
「竜之進様、もう痛ぉ御座いませぬか?」
彼はこくりと小さく頷くが、最早喋る事さえ出来ない様だった。
私が首筋から溢れ、胸を伝う紅い筋を舐め取ると、
彼は切なげに深く息を吐き出した。
口の中に広がる血の味に笑みが漏れる。
彼の頬に手を添え、顔を覗き込む。
今にも溢れんばかりに涙を溜め、
縋る様な面持ちで喘ぐ姿がなんと麗しいことか。
「優しう致します故、ご安心召され…竜之進様」
私は泉の様に血の湧く彼の首に口をやると、ゆっくりと喉を潤す。
一気に吸ってしまっては、あっという間に彼は死んでしまう。
死人の血は、私の命を縮めかねないのだから…。
其れでも彼の命の灯火は徐々に輝きを失ってゆく。