『私の物になりなさい。そうすればあの傲慢な女王に首を跳ねさせたりなんか絶対にさせやしないわ。』

萎えて垂れ下がった長い耳を弄びながら、優しく囁きかける。兎は女王に首を跳ねられるより前に首が取れてしまうのではないかと思う程に、激しく首を振った。

「厭だぁ…、アリスは何時もオレに酷い事ばっかりするんだもん！」

『あら、それはアンタを気に入っているからよ？それに、私は女王みたいに誰某構わず首を跳ねたりはしないわ！』

「けどアリスだって痛い事ばっかりするじゃないか！！」

当たり前だが、まだ兎は納得できないでいる。これ程の窮地でも幾らかの冷静さが残っているのだろう。日頃の行いが仇となってしまった。もう一押しする必要がありそうだ…。ぐっとフロックコートの襟を掴み、引き寄せる。

『今ここでアンタを殺してもいいのよ？その首を城へ持って行って女王に差し出せば、さぞお喜びになられるでしょうよ。そうすれば結構なお品を賜られるに違いないわ。どうせ手に入らないのなら、自分の手で壊した方がましよ！』

強くそう言い放つと、兎はびくりと身を強張らせ小さな悲鳴を漏らした。

『自分で選びなさい。今から女王の元へ馳せ参じて首を跳ねられるか、私の物になって生き長らえるのか。他の選択肢は無いわ。もし逃げるつもりなら、今この場で私がアンタの首を跳ねるだけ…。』

「なんで、オレばっかりこんな目に遭うんだよ…。どうしてこんな事すんの？オレ、アリスに何かした？」

『別に何もされてないわ。』

「じゃぁ、なんで！！」