兎の悲鳴を聞きつけ、静かだった森に緊張が広がる。今や小鳥の囀りも完全に消えていた。迫る足音と共に男の怒鳴り声が響き渡る。

私は兎の腹から飛び降り、呆気にとられている兎をそのままに、急いで元居た岩影に滑り込んだ。それと同時にトランプ兵達が姿を現す。兎の姿を見つけるや、薄気味悪い笑みを浮かべて歩み寄る。兎は自分の置かれた状況が理解できず、ただ迫り来る恐ろしさに後退った。

後方の男が一巻の書状を取り出し先頭の男に手渡した。それを受け取り、はらりと広げる。地に付く程の長さだった。

「被告、白兎。罪状、女王様との謁見に現れなかった罪、及び、女王様のご機嫌を損ねた罪…以下略。まぁ、ここで読み上げずとも、お前なら大抵何が書かれているか察しがついているのだろう？」

兎はひっと小さな悲鳴を上げて男を見やる。男はそれに気を良くしたのか、くっくっと喉の奥で笑い、兎を冷たく見下ろして言葉を続けた。

「全１８６の罪により、お前は死刑…だそうだ。」

控えていたトランプ兵２人が、その言葉を合図に進み出る。にやにやと嫌らしい笑みを浮かべ、それぞれが兎の腕を掴んだ。兎は泣きながらも手足をばたつかせ、精一杯もがいているが、兎よりも上背のある兵士達にはなんの抵抗にもなっていない。

(女王の犬風情が、私のモノに触れるなんて許さない)

私は傍に生えている茨の蔓を毟り取り、兎が引き摺られているのを目を細めて眺めている書状を読んだ男の背後へと忍び寄った。そして茨の蔓をその男の首へと巻きつけ、力一杯に締め上げた。

ぷつぷつと茨の刺が男の皮膚を突き破り、幾筋もの血が首元を彩った。締め上げる程に、私の手にも突き刺さったがさして気になりはしなかった。渾身の力を込めると、男は白目を剥き、そして力なく崩れ落ちた。少し離れた場所で先程の書状をせっせと巻き直していた別の兵は、目の前の惨状に半分以上も巻き直した書状を取り落とした。