『もう大丈夫よ。皆やっつけてやったわ。』

膝を付き覗き込む様に声をかける。兎はまだ頬を赤く染め、泣いていた。そんな姿も愛しくて、そっと手を伸ばす。しかし自分の手が視界に入った所で、その手を下ろす事となった。茨の刺で私の両手は血塗れだったのだ。ふわふわと風にそよぐ美しい兎の髪が赤く染まるのは勿体無いと思った。赤いのはルビーの様に煌く瞳だけでいい。

「――っ、アリス！！」

兎は私の手を見て声を荒げ、やっと顔を上げた。そして、返り血を浴びた私の姿に小さな悲鳴を漏らす。見ればお気に入りの空色ワンピースも、白いフリルの付いたエプロンも、赤黒い染みがあちらこちらに付いていた。

「こんなに、血が沢山…。何が、あったの？」

切れ切れに兎は言うと、私を見上げる。先程の出来事を兎は全く見ていなかったのだろうか…。私は少し呆れ、小さく苦笑を漏らした。それでも、そんな間の抜けたところまで、私は気に入っているのだと気付く。

「怪我、したの？」

未だ流れ続ける血が指先から滴っていた。相変わらず痛みは感じない。兎は不安そうに私を見やり、また今にも泣き出しそうな表情で問う。その表情に愛しさを感じ、私は微笑みかける。

『私のはここだけよ。何てこと無いわ。』

掌をひらひらと振って見せた。茨を巻きつけた所為で、手の甲にも幾つかの穴が開いていた。それぞれの穴から赤い雫が沸き出てきている。私はそれを拭き取ろうと、既に汚れてしまっているエプロンを摘み上げた。

「駄目だよ、アリス！！」