「イツカに抵抗がなければの話なんだがな」
マネージャーの白鷺祷にそう切り出されたとき、皇イツカは事務所のソファに座り、スマホで自分たちのライブ映像を見返していた。
「どうか、した?」
軽く首をかしげて祷を見上げれば、彼はイツカの隣に腰かけながら、少し言いづらそうに口を開く。
「今のメッシュの色を、新しいユニット衣装に合わせて、メンバーカラーに変えてみないかって」
「メッシュの、色……」
「ああ、もちろん強制ではないんだ。今よりも派手な色になってしまうし、イツカが嫌でなければってだけで――」
付け加える祷を見つめ、イツカはスマホの画面へと目を落とした。先日のライブ会場のようすが、映っている。暗い観客席で揺れる、青と赤の光。そこに混ざる、青みがかった緑色――イツカの、メンバーカラー。
アイドルになったばかりの頃、イツカは派手な色のメッシュを入れることに、どうしても抵抗があった。そのこと自体は、アイドルになって一年が経った今も変わらない。目を引くような青色や赤色に、自分の髪を染めることには違和感しか覚えない。だけど、これは――この色は、特別だった。
「やる。変える。イツカの色に、染め直す」
かつては、強制されて入れることになった薄い紅色のメッシュ。それを、Tricot-Tricolorのイツカとして、自分の色に染め直せることは、純粋にうれしかった。
笑ってうなずくイツカを見て、祷は少しおどろいた顔をしたものの、すぐに微笑んだ。くしゃりと、イツカの頭を撫でる。
「わかった。衣装ができるまでに、人の手配をしておくな」
「ん。お願い、します」