青く硬い梅の実を、ひとつひとつ、ビンの底に敷いてから、三袋の氷砂糖を代わる代わるに流し入れる。途中、雅が氷砂糖をつまみ食いしたので、雫がたしなめようとしていた。けれど、イツカも便乗してつまみ食いをしたら、雫は呆れたふうにしながらも、氷砂糖を口にふくんだ。
甘い、おいしい、なんかひんやりする気がする、なんて、そんな言葉を交わし合いながら、ビンのふたを閉める。閉めたふたには、大きめのラベルを貼って、それぞれのサインと、自分たちのユニット名――Tricot-Tricolor――とを書いた。三人で顔を見合わせ、できあがりが楽しみだと、誰からともなく笑い合う。いつしか、外の雨もやんでいた。
「雫、イツカ! 虹がでてる!」
そうはしゃいだ声をあげたのは、雅だった。三人で大きな窓から空を見あげれば、くっきりとした七色の虹が架かっている。
「きれいだな」
雫が言った。
「ん。きれい」
イツカも、うなずいた。
「なあ、ちょっと外行かないか? このあとの予定もないし、三人でさ!」
目をかがやかせながら提案してきた雅に、イツカはすぐに食いついた。
「あ。行きたい」
「まあ、そうだな。また雨に降られたら困るから、雨合羽でもかぶっていくか」
考えこむようだった雫がうなずいたのを見て、イツカは雅とハイタッチをした。ぱちんと、乾いた音が鳴り響いた。
色違いの雨合羽を三人で着て、雨上がりの道を歩いていく。道路には、大きな水たまりができていた。迂回はしなかった。雅が、雫とイツカの手を取って、走りだす。助走をつけて「せーの」で、一緒に水たまりを飛び越えた。
洗い立ての空に架かる虹は色鮮やかで、雲間から覗く日の光は、きらきらとまぶしい。
――きっと、この三人でなら、どこまでもいける。どこまでも、飛べる。
理由もないのに、そんな確信めいた思いを抱いた。願わくば、雫や雅たちも、そう思ってくれていますように。その、ささやかな願いを感じ取ったみたいに、雅の手が、ぎゅっとイツカの手を握った。
(完)