短編
頼まれ事を終えたのは結構な時間が経ちあと何刻かで日を跨ぐであろう時間になってしまった。時間が時間だけに緋雪を先に自宅に帰るように声をかける。真面目な性格の緋雪は当然のように残ることを主張するも、一人で大丈夫、一人で出来る作業だ、ときっぱり言いきると後ろ髪を引かれるような感覚ではあったものの部屋から出ていった。
その後、一人で作業を終えると案の定日を跨いで虫たちも寝静まったかのように声すら聞こえない静寂の時間になっていた。
(先に緋雪を返して正解だったな…)
こんな時間に緋雪が帰れば妹は寝ているだろうが母親は心配して起きているだろう。母親代わり…いや、ほぼ母親のような優しいあの女性に心配をかけるようなことはしたくない。
(ナヴィも家族なのだから遠慮しなくて良いのよ)
ふと、昔にその女性に言われたことを思い出す。遠慮しなくていい…と言われてはいるがチラっと時計を見れば流石に常識の範囲外だ。
家に夜のは朝御飯の支度が始まるであろう時間帯に戻ろう。台所には何度か手伝いで入っているから朝御飯の手伝いも出来る。そう考えがまとまれば仮眠をとってから適当にその辺を散策して時間を潰そう、と外へ出る。
外に出ると思った以上に冷える夜だった。風はないものの外気が冷え足元から来る寒さ。しかし、元々寒さには強い体質と生まれ育った場所柄の賜物か秋の寒さは身体への害はない。むしろ、遅すぎると言われる紅葉の鮮やかな色付きの為にはもう少し日中との気温差を離すために寒くても良いかもしれない、と近くにあった疎らに色付く紅葉を見上げながら考える。
そう、自由気儘に歩いていれば数メートル先にぼんやりと人影を見付ける。
「緋雪…?」
帰宅した、と思いこんでいた緋雪がいた。
日が昇る時間までまだ十分あるこの時間帯から辺りは真っ暗で月明かりといっても三日月の今夜の月はうっすらと陰っている。だが、緋雪とわかったのは緋雪の手元を照らす小さな光(恐らく妖術の類い)が蛍のようにふよふと漂っていたからだ。
しかしながら本人の儚い雰囲気もあってか人外離れして見える。言い方が悪ければ幽霊のように見えるのだが、此方に気が付く様子もなく落ちていたものを集めたのか手には沢山の落ち葉を広い集め楽しんでいる姿は普段の大人びている姿からは想像できないぐらいには年相応に…否、年より幼く見える。
日頃、自分の感情や体質を気にしすぎて周りに遠慮することがある緋雪を知っているだけに、楽しそうにしている緋雪の邪魔をするのは心が痛む。しかし、何時からそうしているかわからないし寒さが本格化してきている時期だ。緋雪の体調が崩れれば家族が心配する。
俺も含めて。
「…なにしている?」
「こんばんは、ナヴィ。先程振りですね」
一向にに此方に気が付かない緋雪の寒そうな姿に耐え兼ね声をかければ、やっとこちらに気が付き拾った落ち葉を落とさないようにしつつも嬉しそうに小走りに近寄る。本人は気がついてないがいつもより肌が青白い。秋とはいえ本格的な寒さを控えるこの時期。吐く息が少し白い。
「もう一度問うがなにしている?」
「確かに一段と冷え込みますが…ほら、羽織も一枚増やしましたので大丈夫ですよ」
「大丈夫、な体温じゃない。家まで送り届けr「ひ、人が話している最中は大人しくしていただきたい!!」…悪い?」
大丈夫だとガッツポーズしながら言う緋雪にやはり心配なため頬に触れるも直ぐ様に手を払い除けられ、驚きで先程まで蝋人形のように白い頬も紅く色づき。普段の温厚な好青年のような口調は変わらずもどこか強めの口調で言われる。何に対して怒られたか…いや、急に触れたことに驚いてしまい叱ったのだろう、しかし何時も触れ合いはしているのに何故…?と不思議に思い首を傾げる。しかし、緋雪が不快に思ったのならば非を認めて謝るべきことだろう。
何故怒られたかは解らないが。
「全く…ナヴィの対人距離の近さに驚きます…」
「緋雪が言うか?それ?」
「俺はともかく、ナヴィこそこのような時間に如何しましたか?」
「…特に理由はない。秋の夜明けの風景を見たかった。秋のこの寒暖差は紅葉や楓、銀杏など秋の山々の色彩を美しくする役割だとわかるからな。この寒暖差からくる寒さは嫌いじゃない」
「風情を感じさせるから好き、か。ふふっ、ナヴィらしいですね」
「それもあるが」
ん?と首を傾げる緋雪の近くをヒラリと紅葉が落ちてきた。それを素早く逃げれないように指で捕まえる。地面に落ちる前だからか、風の悪戯で早くに落とされたからかわからないが鮮やかな緋色に染まった_まさにから紅の紅葉の名に相応しい_紅葉に「わぁ…」と瞳を輝かせる緋雪に渡す。
「何処か寂しげながらも美しさを失わずに魅了してくる、そんな秋の風景が緋雪を連想するから好きだぞ」
「そ、そうですか…(は、恥ずかしげもなくよく言えますね…)」
ナヴィの回りくどくなく直球な言葉に救われ励まされることや裏表がないから一緒にいて助けられることは多々ある。それがナヴィの長所でもあるが、同時に心臓が早まり顔に熱が宿ることも多くなる。家族の他に誰よりも信頼しているし自分以上に大事に思っている。それは、ナヴィも同じように思っている…と思いたい自分がいる。
「…気が済んだか?」
「…そうですね、一等綺麗な紅葉を頂きましたからね。…お母様、心配していますかね。」
「だろうな。帰宅する、と一報を入れたから待っていてくださっているはずだ」
緋雪もナヴィもお互いに各所から頼まれ事を受ける立場や機会を有り難いながらも承れるが二人とも『未成年』というのもあり、このことから両親との約束事の中に遅くなる時には事前に両親のどちらかに伝える、帰宅前には一報を入れる、と言うのが含まれている。
「…怒られますかね?」
「心配してくださってのことだ。…一緒にお叱りを受けるからそんな顔するな」
「…ありがとう」
不安そうにする緋雪に安心させるように言葉を掛けるがきっと両親との約束事を破ったのは初めてだったのだろう。緋雪の自業自得とはいえ、自分も見送らなかったから同罪である。そのことも緋雪が気にかけているのだろう。
「気にするな。少しぐらい悪い子、の方が好ましいぞ?」
と悪戯気味に耳元で囁くように言えば「!?!?」と勢い良く(それでも落ち葉は落とさず)耳に手を当てみるみると真っ赤に染まる緋雪を眺めれば、やはりあきのこの夜の寒さは嫌いではないな、と本人は気が付いてない的外れのことを考えていた。
その後、一人で作業を終えると案の定日を跨いで虫たちも寝静まったかのように声すら聞こえない静寂の時間になっていた。
(先に緋雪を返して正解だったな…)
こんな時間に緋雪が帰れば妹は寝ているだろうが母親は心配して起きているだろう。母親代わり…いや、ほぼ母親のような優しいあの女性に心配をかけるようなことはしたくない。
(ナヴィも家族なのだから遠慮しなくて良いのよ)
ふと、昔にその女性に言われたことを思い出す。遠慮しなくていい…と言われてはいるがチラっと時計を見れば流石に常識の範囲外だ。
家に夜のは朝御飯の支度が始まるであろう時間帯に戻ろう。台所には何度か手伝いで入っているから朝御飯の手伝いも出来る。そう考えがまとまれば仮眠をとってから適当にその辺を散策して時間を潰そう、と外へ出る。
外に出ると思った以上に冷える夜だった。風はないものの外気が冷え足元から来る寒さ。しかし、元々寒さには強い体質と生まれ育った場所柄の賜物か秋の寒さは身体への害はない。むしろ、遅すぎると言われる紅葉の鮮やかな色付きの為にはもう少し日中との気温差を離すために寒くても良いかもしれない、と近くにあった疎らに色付く紅葉を見上げながら考える。
そう、自由気儘に歩いていれば数メートル先にぼんやりと人影を見付ける。
「緋雪…?」
帰宅した、と思いこんでいた緋雪がいた。
日が昇る時間までまだ十分あるこの時間帯から辺りは真っ暗で月明かりといっても三日月の今夜の月はうっすらと陰っている。だが、緋雪とわかったのは緋雪の手元を照らす小さな光(恐らく妖術の類い)が蛍のようにふよふと漂っていたからだ。
しかしながら本人の儚い雰囲気もあってか人外離れして見える。言い方が悪ければ幽霊のように見えるのだが、此方に気が付く様子もなく落ちていたものを集めたのか手には沢山の落ち葉を広い集め楽しんでいる姿は普段の大人びている姿からは想像できないぐらいには年相応に…否、年より幼く見える。
日頃、自分の感情や体質を気にしすぎて周りに遠慮することがある緋雪を知っているだけに、楽しそうにしている緋雪の邪魔をするのは心が痛む。しかし、何時からそうしているかわからないし寒さが本格化してきている時期だ。緋雪の体調が崩れれば家族が心配する。
俺も含めて。
「…なにしている?」
「こんばんは、ナヴィ。先程振りですね」
一向にに此方に気が付かない緋雪の寒そうな姿に耐え兼ね声をかければ、やっとこちらに気が付き拾った落ち葉を落とさないようにしつつも嬉しそうに小走りに近寄る。本人は気がついてないがいつもより肌が青白い。秋とはいえ本格的な寒さを控えるこの時期。吐く息が少し白い。
「もう一度問うがなにしている?」
「確かに一段と冷え込みますが…ほら、羽織も一枚増やしましたので大丈夫ですよ」
「大丈夫、な体温じゃない。家まで送り届けr「ひ、人が話している最中は大人しくしていただきたい!!」…悪い?」
大丈夫だとガッツポーズしながら言う緋雪にやはり心配なため頬に触れるも直ぐ様に手を払い除けられ、驚きで先程まで蝋人形のように白い頬も紅く色づき。普段の温厚な好青年のような口調は変わらずもどこか強めの口調で言われる。何に対して怒られたか…いや、急に触れたことに驚いてしまい叱ったのだろう、しかし何時も触れ合いはしているのに何故…?と不思議に思い首を傾げる。しかし、緋雪が不快に思ったのならば非を認めて謝るべきことだろう。
何故怒られたかは解らないが。
「全く…ナヴィの対人距離の近さに驚きます…」
「緋雪が言うか?それ?」
「俺はともかく、ナヴィこそこのような時間に如何しましたか?」
「…特に理由はない。秋の夜明けの風景を見たかった。秋のこの寒暖差は紅葉や楓、銀杏など秋の山々の色彩を美しくする役割だとわかるからな。この寒暖差からくる寒さは嫌いじゃない」
「風情を感じさせるから好き、か。ふふっ、ナヴィらしいですね」
「それもあるが」
ん?と首を傾げる緋雪の近くをヒラリと紅葉が落ちてきた。それを素早く逃げれないように指で捕まえる。地面に落ちる前だからか、風の悪戯で早くに落とされたからかわからないが鮮やかな緋色に染まった_まさにから紅の紅葉の名に相応しい_紅葉に「わぁ…」と瞳を輝かせる緋雪に渡す。
「何処か寂しげながらも美しさを失わずに魅了してくる、そんな秋の風景が緋雪を連想するから好きだぞ」
「そ、そうですか…(は、恥ずかしげもなくよく言えますね…)」
ナヴィの回りくどくなく直球な言葉に救われ励まされることや裏表がないから一緒にいて助けられることは多々ある。それがナヴィの長所でもあるが、同時に心臓が早まり顔に熱が宿ることも多くなる。家族の他に誰よりも信頼しているし自分以上に大事に思っている。それは、ナヴィも同じように思っている…と思いたい自分がいる。
「…気が済んだか?」
「…そうですね、一等綺麗な紅葉を頂きましたからね。…お母様、心配していますかね。」
「だろうな。帰宅する、と一報を入れたから待っていてくださっているはずだ」
緋雪もナヴィもお互いに各所から頼まれ事を受ける立場や機会を有り難いながらも承れるが二人とも『未成年』というのもあり、このことから両親との約束事の中に遅くなる時には事前に両親のどちらかに伝える、帰宅前には一報を入れる、と言うのが含まれている。
「…怒られますかね?」
「心配してくださってのことだ。…一緒にお叱りを受けるからそんな顔するな」
「…ありがとう」
不安そうにする緋雪に安心させるように言葉を掛けるがきっと両親との約束事を破ったのは初めてだったのだろう。緋雪の自業自得とはいえ、自分も見送らなかったから同罪である。そのことも緋雪が気にかけているのだろう。
「気にするな。少しぐらい悪い子、の方が好ましいぞ?」
と悪戯気味に耳元で囁くように言えば「!?!?」と勢い良く(それでも落ち葉は落とさず)耳に手を当てみるみると真っ赤に染まる緋雪を眺めれば、やはりあきのこの夜の寒さは嫌いではないな、と本人は気が付いてない的外れのことを考えていた。