前兆
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まともに明かりのない街道を、軽快な足取りで歩いて行く1人の女性の姿があった。
彼女はジャンヌ・クルード。
飛び抜けた射撃技能や分析力を認められ、いくつもの死線を越えて来た彼女は、23歳で陸軍の准尉にまで上り詰めた実績を持つ。
彼女は特例で請け負った任務を終えて家路に着くところだったのだが、途中で車がエンストしてしまい、かなり離れた街までの徒歩を余儀なくされてしまったのだ。
時刻も夜中の0時を回り、この近辺では2ヶ月前から猟奇事件が多発しているとニュースで報道されていた。
しかし、数メートル間隔にある明かりだけが頼りの暗い道も、スーツケースを片手に鼻歌まじりに歩く姿を見れば、彼女の肝の座りようが手に取るように分かるだろう。
暗闇ごとき、ジャンヌにとっては恐怖の部類に入らない。
そんなジャンヌの影が背後から来た車のライトを浴びてスッと伸びた。
車がスピードを緩めて彼女の隣に止まると、開いた運転席の窓から男が顔を出して来た。
「お嬢さん、こんな夜中にどうしました?」
人柄の良さそうな男の言葉にジャンヌの顔は安堵の表情に変わる。
「車がエンストしちゃって……隣街まで歩いてるんです」
遠回しに『乗せて』とねだるジャンヌ。
しかし返って来た言葉は……。
「乗せてってあげたいのはやまやまなんだが、生憎と先客がいてね」
「……先客?」
視線を後部座席へと移動させた瞬間、普段決して物おじしないジャンヌの背筋が凍りつく。
そこに座るのは軍人だろうか、筋肉質の逞しい右腕に派手なタトゥーを刻み、手首には拘束する為の枷を施された男とその隣に座る警官の姿が見えた。
間違う事なくこの車は護送車で、犯罪を犯した囚人を移送している途中だったのだ。
驚愕の現状にジャンヌはごくりと生唾を強引に飲み込み、引き攣った笑い顔で
「私には勿体ないお車ね」
と送迎を丁寧にお断りした。
そうして警官達と別れ、離れて行く車の背を見送るとまたとぼとぼとジャンヌは歩き出す。
しかしこの判断が正しかったと知るのは、ジャンヌが護送車を見送ってからの事だった―――……。