第1話〜悪魔狩人ダンテ〜
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書店で目当ての本を買って、公園のベンチでそれを熟読していた黒髪の人物───名前はマヤ。
自分に色々なコンプレックスを抱く彼女が、唯一落ち着ける時間が読書だった。
今読んでいるのは、天使と悪魔に纏わる文書で、幻想的な話が好きなマヤの心を見事に掴んだ。
周りは遊具で遊んだり、追いかけっこをしたりする子供達や、雑談をしている母親達の声がしているが、本に夢中の彼女は騒がしさを感じていない。
それだけ夢中になる事、数時間。
すっかり読み耽っていると、水色の空に高々と浮かんでいた太陽が、西の空に傾いている。
ぼんやりとマヤは太陽を見つめ、ほうっと溜息を吐く。
「そろそろ帰らなきゃ……」
ベンチに広げた物を鞄に仕舞いながら立ち上がった拍子に、今読んでいた本を落としてしまった。
「あっ……」
鞄を閉じて本を拾おうと屈むが、地面に落ちた本のページはある章を開いていた。
そのページとは……。
「悪魔……」
マヤがそう呟いた瞬間、さっと彼女の影が伸び、本が紫色の光を帯びた。
「えっ……」
まるで強い引力が働いているかのように、マヤの体は本に向かって倒れそうになった。
しかし感覚は『倒れる』より『落ちる』感覚に似ている。
途端に、五感が狂うような錯覚すらも覚えるマヤ。
視界は黒と紫の渦を捉え、聴覚はさっきまで聞こえていた子供達の笑い声を忘れ、変わりに金属の音と銃声を取り込む。
悲鳴も何も出せず、ただマヤは渦に飲まれるしかなかった。
止まない混乱の中、不意に渦の中心が光を放つ。
「な……何!?きゃあっ!!」
強い光に飲み込まれたかと思い、反射的に目を暝るマヤが五感を取り戻した時、真横から男の声がした。
「誰だ?」
「!!」
ビクッとして肩を跳ねさせる。
「あ。別に怖がらなくていいぜ。俺は“奴ら”と違って無害だからな」
恐る恐るマヤは瞳を開いて声の方を向くと、彼女の前には銀髪の男がテーブルに座っていた。
本来座るべき物の椅子は壊されて隅に転がっている。
……いや、椅子だけでなく、部屋自体が切り傷や銃痕で痛々しく傷つけられていた。
更には床が抜けていたり、あろう事か真っ二つにされたビリヤード台の半分がドアに突っ込んでいる。
その光景に……と言うか、自分がそんな場所にいる事に驚き、戸惑いを隠せない。
「え……えぇっ!?私……公園にいたのに、どうしてこんな場所にいるのぉ!?」
1人戸惑う彼女に、男が手にしてた剣を肩でとんとんと弾ませて近づく。
「どうやら何か事情があるみたいだな。……鍵はかけてなかったけど、お嬢さんはどこから入って来たんだ?」
「わ、私……は、公園にいたの。そしたら本に吸い込まれるみたいな感覚になって、渦の中に落ちて……。それで光が見えたと思ったら、ここに……いました……」
まだ整理しきれていない頭で、これだけ言えれば上等だろうと、語尾は弱いがマヤは何とか言い切った。
一方の男は興味津々に、剣を持たない方の手を顎に添える。
「つまりはトリップしたって事か。不思議な事もあるもんだな」
あっさりと解釈した男は、一旦向けた背中をぐるりと反対に回して言った。
「お嬢さん、名前は?」
「名……前?」
あんな支離滅裂な説明で納得され、更には話も進められ、状況を飲み込めないマヤは一瞬呆けた。
「自分の名前も言えない歳じゃないだろ?」
意地悪で、それでいて悪戯な笑みを近づけられ、マヤはパニックになって悲鳴を上げる。
「こ、子供扱いしないで下さいっ!!」
顔を赤くして握った両手をぶんぶんと振る様子に、男は楽しそうに声を出して笑った。
「ハハハッ!!元気があっていいじゃん!!」
ご機嫌になった男は再度、同じ質問を投げかける。
「初対面なんだから、名前ぐらい教えてもらっても悪くないよな?」
今度は子供のような無邪気な微笑みを向けられ、マヤは高鳴った胸を押さえて呟いた。
「マヤ……です」
「……マヤか……。よろしくな、俺はダンテ。好きに呼んでくれて構わないぜ」
「ダンテ……?」
そう彼の名前を復唱しながら改めてダンテを見遣ると、またマヤの顔に熱が宿る。
風呂上がりなのかは分からないが、やや火照った体はズボンしか纏っていない。
晒された逞しげな上半身を直視出来ず、恥ずかしさから彼女は目を伏せた。
「ところで……生憎俺はパーティーに呼ばれててさ。ちょっと出かけなきゃならないんだ」
「パーティー?」
「ああ。飛び切り物騒な奴に……な。ここで大人しく待つってのはあんまり勧められないが、パーティーに飛び入り参加するってのも正直微妙なんだ」
「……つまり……?」
「1人で怖いお留守番をするか、危ないパーティーに一緒に参加するか。2つに1つだけど、どうする?」
どちらともあまり聞こえはよくない。
少し考えた後、マヤは静かに尋ねる。
「留守番を選んだとしたら、どのぐらいダンテを待ってればいいんですか?」
「さあな。下手したら朝帰りか……。とにかく、1時間や2時間で帰してくれそうにはないな。第一……」
ダンテが床に落ちたピザに手を伸ばそうとした時、マヤは悲鳴を上げた。
悲鳴の理由は、決して行儀の悪いダンテの行動が原因でない。
突然現れ、彼が手を伸ばしたピザを踏み潰した異形の存在を見て……だ。
死神を連想させるそれをマヤが直視する間もなく、呆気なくダンテが撃った銃弾で消されてしまったが……。
「い、今の……死神っ?」
「ヘル=ラストっていう悪魔だ。ここに残ってたら、今みたいな残党が出て来るかもしれない。……マヤ1人じゃもてなし出来ないだろ?」
千切れてしまうのでは……と思うぐらいの勢いでマヤは首を横に振って『出来る訳がない』と訴える。
「だよな。じゃあ、俺と行くしかないな。……ああ、そうだ。むず痒いから敬語はなしな」
部屋の奥に掛けられた血のような赤いコートに手を伸ばしてダンテが言うが、途端にコート掛けが倒れ、次いでシーリングファンが落下して来た。
「わっ!?」
「……派手にやり過ぎたな。マヤ、パーティーに行くぜ」
「え……う、うん。でもダンテ、そのパーティーって……どんなパーティーなの?さっき物騒とか言ってたけど……」
「ああ。ドレスもプレゼントもいらないパーティーだ」
いるのは度胸ぐらいだと冗談を呟くダンテは扉に向き直る。
「……さあ、イカれたパーティーの始まりだぜ!!」
ダンテのブーツが高らかな音を立てて扉をぶち抜いた。
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