受け継がれし光の歌
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今宵の空は気持ち、いつもよりずっと不気味に感じられた。
いつもと同じフクロウの鳴き声も頬を撫でる風も、気味を悪くさせる要因でしかない。
―――さて、これからリンクとルナは墓地に行くようにインパに命じられた訳だが、彼らは未だに風車小屋の前で止まっていた。
「……ルナ、進めないんだけど」
困ったようにリンクが言ったのには理由がある。
ルナが彼にガッチリしがみついていたのだ。
「だ、だってお墓に行くんだよっ!?怖いじゃんっ!!」
「でもインパさんに言われたじゃん。墓地にある王家の墓の前で、ゼルダの子守歌を……」
「やだやだやだやだっ!怖い怖い怖い怖いっ!」
ついに涙を浮かべてしまったルナはリンクを抱きしめる力を強める。
やらなければならない事を考えると、彼女を引きずってでも行きたいところだが、仏心というか……ここまで怖がる姿に慈悲が湧く。
「……もしかして初めてじゃない?ルナからリンクを頼りにするの」
「な、何言ってるんだよナビィ!オレはいつだって……!」
「そう?本当にそう言い切れる?」
「ゔ……」
淡々と言われた途端、自信が徐々に消失していった。
ナビィの言う通りルナを守りたい思いは常々あったが、それは彼女から求められたものでない。
『俺がルナを守るから!』
「―――……って言ってばかりだったよネ」
「何だよー!けなしたいのかよー!」
「だから~、今まさにリンクの出番じゃないの!ルナの為に頑張らなきゃ!」
遠回しすぎた応援に脱力。
「……最初からそう言ってくれよな」
ルナにしがみつかれたまま頭を掻く。
それから背中を撫でてやり、優しい声色で言った。
「ルナ、何があっても俺が守るよ。強くなる為にも、怖いと思うけど頑張ろう」
「うぅ……」
「怖いなら俺がルナをおぶってあげるから。ね?」
きつい言い方は出来ないし、したくなかった。
精一杯の言の葉に、やっとルナは首を縦に振ってくれた。
それからしゃがむリンクの背中に乗り、漸くカカリコ村の墓地に向かって出発する。
蔦で覆われた門を潜って最初に目に入ったのは、リンク達の背丈より大きい石碑だった。
―――この地に眠る魂、ハイラル王家に忠誠を誓いし者の魂なり。
王家に仕える民、シーカー。
ここカカリコに村を築き、眠れる魂を守るものなり……―――。
「……シーカー族のお墓みたいネ」
「すごい数の墓石だな。王家の墓っていうのはどれだ?」
「やっぱり一番立派に違いないわよ。奥まで行ってみましょう」
「ああ。ルナ、行くよ」
「は、はぁい……」
本当は嫌だけど、ここに残されたくもないルナは恐る恐るといった感じで返事をする。
一方のリンクは王家の墓を探しながら、ふと前にもこんな事があったと思い出していた。
懐かしさから笑うと、背中のルナが急に怒る。
「もうっ!笑わないでよリンク!怖いものは怖いんだからぁ!」
「えっ?ち、違うよ。懐かしいなって思っただけ」
雲に覆われた空を見上げ、彼は言った。
「最初にルナと会った時も、こうやって俺がルナをおぶってコキリの森を歩いたなって」
「あ……」
言われてからルナもあの時と変わらない、リンクの温もりに気づく。
唯一変わったのは、彼の頼もしさだろうか。
肩をキュッと握って恥ずかしそうにルナが言った。
「ごめん、ね……」
蚊が飛ぶようなか細い声にリンクは「別に平気だよ」と明るく返して足を進める。
やがて何かを見つけたナビィがリンクの前に降り立つ。
「リンク、奥に大きな墓石があるヨ。もしかしたら王家の墓かも」
「よし!」
気持ち早足で進めば、程なくその墓が見えてきた。
2つの墓石に挟まれた一際立派なそれこそ、インパに言われた王家の墓だった。
「これが……」
「早くゼルダの子守歌を吹きましょ」
ルナを降ろして妖精のオカリナを取り出すリンクの腕に、彼女がぴたりとくっつく。
どうしても、リンクにしがみつかずにはいられないようだ。
そんな彼女が可愛いと思い、頭を撫でてからオカリナを構えるリンク。
奏でるのは王家の証、ゼルダの子守歌だ。
不気味な墓地に美しい音色が響いた。
「…………」
「……で、もう終わりかな?」
命じられた通りに王家の墓の前でゼルダの子守歌を吹いた。
しかしこれで終わりにしては、しっくり来ない。
「まだ何かあるのかしら」
「もしかしたらこのお墓じゃないのかな」
「大丈夫だよぉ!だって墓石にも“王家の墓”って彫ってあるもん!もう帰ろうよぉ!」
1分1秒でも早く帰りたい思いでいっぱいのルナが叫んだ直後、第三者の声が響いた。
「何者ダ」
「我ラノ主ノ墓ヲ荒ラス愚カナ者ヨ」
「!?」
突然の気配にリンクはルナを守るように剣を構える。
「誰だ!?」
叫んだ後に、王家の墓の両隣の墓石から火の玉が浮かんだ。