離別
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礼拝堂の地下に隠されていた謎の研究所に辿り着いたビリーとジャンヌは、上下のフロアに分かれて探索を始めていた。
天井に出来た穴から垂れるロープを伝って登るジャンヌは、これからしなければならない行動を振り返っていた。
まずは吹き抜け廊下に出て、下の通路を開ける。
そしてマーカスの研究室で飼育室の鍵を入手して、そのまま飼育室へ向かう……。
(飼育室にはハンターがいる……。ショットガンは温存しなきゃ……)
上の部屋に到達すると、まずは一息入れる為にジャンヌは座り込む。
だが部屋を見渡した瞬間、視界に入ったあるものに、つい悲鳴を上げそうになった。
ガラス扉の棚に反射して映る、人型ヒルの姿。
(どうしてここに……!?でも……)
何度確認をしても、やはりマーカス所長に擬態したヒルに間違いない。
しかし動きがない様子から、まだ向こうはジャンヌの存在に気づいていないようだ。
ただ、こちらから見えるならば、相手にも同じ事が言える。
ジャンヌは死角に移動をして銃を手にした。
たった今、ショットガンは温存しなければと決意したが、この状況では命が最優先とされる。
(とにかく、ここを抜けなきゃ……!)
そっと立ち上がるガラス越しの自分と目が合うと、棚の中の薬品にアルコールがあるのを見つける。
ヒルに気づかれぬよう、静かにそれを棚から出すと口を緩やかな弧にする。
(中身もあるし、これなら倒せるわね……!)
予想外の収穫に安堵すると、隣の薬品に薬品名以外のシールが、これみよがしに貼られているのを発見した。
『剥離剤』
分かりやすいラベルが気になって薬品を手にするジャンヌ。
ラベルには小さく『カプセルのみに使用可』とある。
しかも『所長の許可なくこれを使う事を禁止する』と、古臭いしきたりのような言葉まで。
(つまり、マーカス以外は触るなって事ね……)
所長に関係するものは、たいてい仕掛けを解く鍵になっているのだから……と、念の為にジャンヌは剥離剤も棚から拝借した。
さあ、ここまでは流れよく出来た作業だが、ついに来るべき時が来た。
ジャンヌの鼓動が緊張の為に速くなる。
装備を拳銃にし、ナイフもすぐ使えるようにしてガラスに映るヒルの姿を確認すると、アルコール瓶の蓋を開けた。
そして意を決して、人型ヒルの前に飛び出す。
(もしかしたらこのヒルは、廊下に閉じ込めた奴かもしれない……!私が倒せば、ビリーは安全になるかも……!)
そう思う間にも擬態を解除して、悍ましい姿に変貌するヒル。
鞭のように腕を振るい、ジャンヌに襲いかかるが狭い場所なので、ヒルは思うように動けないようだ。
「私は今まで会った兵士とは違うわよ」
得意げに言い放ち、アルコール瓶を人型ヒルに投げつける。
気を抜くと強い匂いで酔ってしまいそうだが、今のジャンヌにその心配はない。
ヒルの足元にアルコールが広がったのを確認すると、一気に距離を取ってナイフをアルコールの溜まりに投げる。
硬い床とナイフがぶつかる時に発生する小さな火花が引き金となり、瞬く間に炎が上がってヒルを包んだ。
弱点の熱で苦しむヒルにショットガンを構える彼女の額からは、緊張と熱さから出た汗が流れる。
しかしヒルはそのまま果て、あれだけ勢いのあった炎もほとんど消えてしまった。
「ふう……。何とか弾は使わないで済んだわね……」
床に刺さったままのナイフに手を伸ばすジャンヌだが、すぐに腕を引いた。
(危ない危ない……。火傷するところだったわ……)
気を緩めた自分に叱咤してジャンヌが顔を上げると、付近の棚には何かの臓器のような物が並べられているのに気がついた。
気分を悪くして視界を別の向きにすると、ヒルがいた場所の奥にガラスケースがあり、何か光る物が保管されている。
近づいて見ようとするとセンサーが働いたのか、容器のフィルターが外れた。
光る物を手にしてみると、それがヒルの形をした物を入れた特殊素材のカプセルだと分かる。
「カプセル…………あっ」
思い出したように声を漏らすと、さっきの剥離剤を取り出した。
「ふうん……。『カプセルのみに使用可』。しかもカプセルがヒル型でマーカスしか使えないなら、間違いはないわね」
試しに蓋を開けようとするが、全くびくともしない。
やはり剥離剤との組み合わせが必要なようだ。
早速薬品を利用して、カプセルからヒルのオブジェを取り出してみる。
妙にリアルで気味の悪いそれを眺め、後に使うだろうと一旦ポーチに仕舞いつつ、この部屋で出来そうな事がなくなったジャンヌは、床に刺さったナイフを回収して吹き抜け廊下に出る事にした。