咆哮[後編]
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
キースと別れた2人は浄化室を抜け、電源兼空気調整室にやって来ていた。
そこでジャンヌは見つけた資料を手にしながら、浮かない顔をしている。
「困ったわね……。このままじゃあ、ダム管理塔まで行けないわ」
と言うのも、管理塔までの通路が水流で塞がれているのだ。
そして本来は通路を利用する際には管理塔と連絡を取って水門を操作するのだが……。
「通信機も使えないし、使えたところで誰も出るはずがない、か……」
ビリーも壁に寄りかかって案を探す。
「強引に行ける程、水流も弱くないしな。他に行く道が……」
窓から管理塔の方を見遣ると、彼はこの場所とを結ぶ物を見つけた。
荷物運搬用のゴンドラだ。
「使えないか?」
「……ダメだわ。システムの基盤が故障してて、スイッチが入らない……」
「クソッ!手詰まりか……!」
悔しそうに手の平に拳をぶつけるビリー。
ジャンヌも基盤を手にしてみるが、直そうにも修理をする為の道具は勿論、知識すらない。
「代わりの基盤はないかしら?稼動してた時だって、システムが壊れたら不便よね?」
「……成る程な。ジャンヌの予想に賭けるか」
そしてジャンヌは部屋の中を、ビリーは資料を漁る。
……どのぐらい調べていたか、ビリーが資料から基盤の在りかを発見した。
「最終処理室の上層に代わりの基盤があるらしい。ここからなら、そこのリフトに乗って行けばいいみたいだな」
「良かった……!早く向かいましょう!」
足早にリフトに乗り込む2人。
───そのリフトをまた、階下で待つ者がいる事も知らず。
部屋の中央は吹き抜けの造り。
地図で確認すると、部屋をぐるりと1周した先の梯子を登れば、基盤のある場所に行けるようだ。
「……ところで、どのぐらい進んだらキースを迎えに戻るの?あんまり離れると大変よね?」
「ダムの管理塔に行けるぐらいでどうだ?そうしたら場所も近いし、丁度良さそうだが……」
「じゃあまずシステムの基盤を見つけて、私がゴンドラに乗って管理塔に着いたら、水門を操作すればいいのね」
「俺じゃあゴンドラに乗れないからな」
その為に梯子を目標にして歩を進めていると、突然吹き抜けから大きな爪が現れる。
「!?」
おどろおどろしい気配に2人が振り向くと、なんとジャンヌが倒したはずの暴君が再び立ち塞がっていた。
タイラントは真っ白な肌に水を滴らせ、あの時と同じ虚無感をまとって2人を睨む。
「プロトタイラント……!?」
「コイツが!?」
体の所々に弾痕があるから、さっきのタイラントと同じ個体で間違いはない。
「信じられない……!!あんなに銃弾を撃ち込んだのに……!!」
「なんてタフな野郎だ……!」
するとタイラントが右腕を引いて殺気を放った。
「伏せろ!!」
ビリーがジャンヌを押し倒すように攻撃を避けると、タイラントの凶器が壁にめり込む。
「っ……!!」
2人の顔が蒼白する。
ゆっくり爪が抜かれると、分厚いはずの壁には拳程の穴が開けられていた。
「こんなのにやられたら即死だぞ!?」
「その前に倒すしかないわね!!」
臨戦体勢になるジャンヌのマグナムが火を吹く。
撃ち放った銃弾はタイラントの右肩に命中すると動きを鈍らせた。
前回のダメージは蓄積されているのか、この一撃だけで暴君が怯む。
その隙にビリーが脇をすり抜けて後ろを取った。
ジャンヌもタイラントの注意を引くのに、マグナムを撃つ。
前後から攻撃を受け、タイラントの体がふらふらと揺れると、目の前のジャンヌを光のない目で睨み据えた。
(―――来る!!)
攻撃の兆候を予想して後退すれば、タイラントの爪が大きく空振りし、空気を裂く音だけを残して壁に深く突き刺さった。
「…………!!」
ちらりと後ろを見遣るジャンヌは梯子の位置を確認すると、一目散に駆け出した。
「ジャンヌ!?」
「コイツの狙いは私よ!!私が引きつける!!」
梯子を登り、片手で発砲出来るようにハンドガンに装備を変えると、タイラントの攻撃姿勢がいつもと違うものになる。
今までは前方への攻撃の構えだったのが、この時だけは上への攻撃体勢。
まさか、と思った時にはタイラントの足は床を蹴っていた。
「きゃあああああっ!!」
「ジャンヌ!!」
飛び上がった暴君が爪を振りかざしてジャンヌを襲う。
枝のようにたやすく折られた梯子から音を立てて落ちると、ビリーの顔が蒼白する。
「ジャンヌ!?」
「だ……大丈夫!間一髪だけどね……!!」
ギリギリのタイミングで上層まで登った彼女から無事が伝えられると、ビリーはホッと胸を撫で下ろした。
「冷や冷やさせやがって……。―――さて」
硫酸弾がセットされたグレネードランチャーの銃口がタイラントに静かに向けられる。
「次の相手は俺だぜ」