前進
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キースを失った悲しみに打ち沈むジャンヌを、ビリーは黙って背中から抱きしめながら、二度と起きる事のないキースを見遣る。
―――ビリーは涙を流せなかった。
泣きたい程悲しいのに、悔しさの方が強かったからだ。
(俺はまた……命を救えなかった……!)
1年前の事件と同じく、己の無力さを痛感する。
「キース……」
「…………」
やり場のない怒りと悲しみがビリーの胸を締めつける。
1年前に味わったのと同じ、先の見えない絶望のせいでジャンヌを慰めてやる事も出来ない。
しかし、不意に抱きしめていた腕を握られた。
「……ビリー。キースは……これで救われたのよね……?」
人の心を残したままで永久に眠った彼を思う。
「キース……言ってたわよね?私達は『殺す』んじゃなくて『救う』んだって……。……これで……良かったのよね……?」
「……ああ。最良かは俺にも分からない。でも、キースはこの結果を望んでいた。……キースを思うなら、俺達のやった事は間違いじゃない……」
「うん……」
その時、彼が言った最後の言葉を思い出す。
『―――ありがとう』
「アイツは……最後まで俺達の事を考えてくれていたな……」
彼なりの優しさに今更気付いた。
ジャンヌも泣き濡れた顔ごと腕で拭くと、天井を仰いだ。
「私……ここから脱出するまで、もう泣かない」
「え?」
「キースが言ってたんだもの。『泣いた顔は似合わない』って。だから……もう涙を流さないって決めたの」
「……そうか」
ふと、2人だけに『ジャンヌの事を大事にしろ』と言われたのを思い出し、彼女をもう一度抱きしめる力を強めるビリー。
「ジャンヌは……やっぱり強いな。その強さに、俺もどれだけ救われたか……」
彼女の強さと気高さを讃え、力を込めて抱いた。
「私は強くなんか……。それに、約束したもの。必ずこのペンダントを……キースの気持ちを届けるんだって」
約束。
その言葉はジャンヌの中で大きな存在だった。
―――幼い頃、父の唯一守れなかった約束が、今でも彼女の中に強く存在し、そして大切さを教えてくれた。
「……ビリー、ありがとう。もう平気よ」
最後に、今まで自分を優しく包んでくれていた腕をもう一度だけ抱きしめ、ゆっくりと放した。
「キースの為にも……行きましょう」
「―――ああ」
武器を手に2人は静かに立ち上がると、切ない表情でキースを見つめてこう言った。
「さようなら」
それと……。
「ありがとう」
『ごめんなさい』はいらない。
確かに彼らはキースの願いを聞き、銃弾を放ったのだから。
「―――…………」
最後の別れの言葉は、機械の音に消されて聞こえる事はなかった。