女王
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マイクロ波焼却炉室を抜けた先に脱出口がある。
この一件で唯一出会った生存者キースからの情報を頼りに、ビリーとジャンヌはついに焼却室に入る為の鍵を入手した。
やっとここまで来れた。
ここに来るまでに何度傷つき、何回絶望しただろうか。
真新しい、キースが犠牲となった記憶もフラッシュバックした。
だがそれを受け止め、2人は銃弾を込めた武器を手にし、焼却炉室へ向かう通路のロックを解除する。
「いよいよね……」
「ああ。だが、気は抜くなよ」
「当然よ。寧ろなんでかしらね、異様に五感が冴えてるような感覚だわ……」
脱出目前にも関わらず、期待より緊張がジャンヌの中に巡っていた。
幾度となく死線を越えてきた、軍人としての無意識の感覚だろうか。
「……奇遇だな。俺もだよ」
「2人して感覚が麻痺してなきゃいいけど」
「同感だ」
歩を進めながらそんな冗談を言い合える時間も、きっともう長くない。
脱出するという事は、同時に別れが訪れる事でもあるからだ。
ビリーはまだ素振りにも出していないが、無事にここを脱出したら───彼女に別れを告げるつもりだ。
ジャンヌと離れたくなどない。
しかし、ここまで死刑囚の自分と行動した事によって、ジャンヌにまで何らかの罪が着せられてしまうのなら……。
……それならば、別れた方がずうっとマシだった。
自分を忘れても、自分と離れても、彼女が平和に暮らしてくれれば、それでいいと……。
そしてジャンヌも、ここまで行動を共にした彼の気持ちは薄々勘づいていた。
脱出が叶った後に告げられるであろう、言葉や彼の表情ですら、脳裏に浮かべられる。
想像の中でも『嫌だ』と伝えられはしなかった。
遠回しではあったが、互いに打ち明けた『共にいたい』という強い本心に、どうにも出来ない現実が突き刺さる。
―――いや、それで悩むのは後でいいだろう。
(今は目の前の事に集中しないと……)
キースから受け取ったペンダントを握ってビリーの背中を追うが、マイクロ波焼却炉室にて彼の足が止まった。
続いたジャンヌもまた同じように足を止め、部屋の酷い有り様に息を呑む。
どこを見てもヒル、ヒル……ヒルの群れ。
天井や壁以外にも、手すりやパイプに粘液を絡めながらヒルが蠢いていた。
その夥しすぎる数に、機械が発する熱で暑いはずの部屋にいながら、おぞましい寒気が走る。
幸いな事は、ヒルがこちらに攻撃をする様子がない事だろうか……。
「なんだ、この部屋は……!」
「一面がヒルだらけ……。一体何なの……?」
不穏な気配の中、より異質なものが2人の前に現れた。
「―――ようこそ。この地獄の果てへ……」
「!?」
身構える彼らが見たのは、この場に不似合いな綺麗に映える白の装束を着た、これまでの2人の行動を監視していた謎の青年。
こうして対面するのは初めてだが、すぐに状況を理解が出来た。
―――この男は敵だ、と。
「さあ、楽しい宴を始めようじゃないか。君達2人の、弔いの宴を……ね」
「お前はっ……!?」
地下研究所にて見つけた古い写真に映る青年時代のマーカスと彼は、やはり酷似している。
マーカスの血縁者なのかとビリーが問い詰めようとした時、信じられないものを彼らは目の当たりにした。
青年が目を見開くと途端に姿が変貌して老人に変わると、ジャンヌが驚きのあまりに言葉を失う。
青年が姿を変えた老人とは、これまで2人が遠く、深く関わった人物―――アンブレラの創立者、ジェームス・マーカスそのものだったからだ。
「マーカス!?お前が……!?」
「嘘、でしょう……!?そんなっ……どういう事なの!?」
確かにマーカスに子供はいない情報があったが、青年とマーカスが同一人物だったという、なんとも受け入れ難い現実に驚愕する2人にマーカスはくつくつと笑い、そして語り出した。
「そう……10年前、私はスペンサーが差し向けた暗殺者に葬られた……」