訪れる悪夢
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ルナが城下町とコキリを往復する事が馴染みになってから、半分の年が過ぎようとしていた。
たくさんの時間を重ねる内、リンクはある事実にふと気がつくのだった。
(俺……ルナといると、あの夢を見ないなぁ……)
これまでは毎夜のように繰り返されていた謎の悪夢が、ルナが隣にいると、ぱったりと見なくなったのだ。
偶然なのか、それとも必然か―――……。
「……ク。リンク?」
「えっ……あ、何?」
「何?じゃないヨ。ボーッとして……」
今リンクとルナはコキリの森の高台にいる。
ルナの歌を聞きながら意識が飛んでたようだ。
「折角リンクの為に歌ってたのに……」
ぷうっと頬を膨らませるルナ。
自分の為に、という部分に罪悪感と嬉しさを感じる。
「ご、ごめんルナ……。ちょっと考え事してたんだ」
「考え事?どうしたの?」
リンクは自分が見ていた悪夢の話をした。
今まで彼がそんな事を口にする事はなかったので、ルナは驚きながらも黙って彼の話を聞いた。
話が終わった後、ルナはじっとリンクを見つめてからその手を重ね、そして握った。
「もう大丈夫だヨ。私がリンクの傍にいるから」
「ルナ……。ありがとうっ。さ、そろそろ帰ろ!」
リンクに手を握り返され、ルナはリンクの家に赴いた。
しかし途中で歩き出していた足を止めた。
音を立てて荒れる疾風をルナが睨む。
今夕の空が群青色に変化していく様子が、何かを比喩するようで不気味であった。
ルナはそれを感じて虚空を見上げる。
「ルナ?」
「……ううん。なんでもないヨ!行こ!」
気のせいだと、間違いだと思いたくて。
けれどそれは残酷な事実で。
リンクが見なくなった悪夢は、今宵現実に向かって形を成していくのだった―――……。
木々がざわめく。
風は温く雲は暗い。
「今夜は嵐かな……」
リンクは窓を閉める前に空を見上げて呟いた。
「いい空気じゃないよネ……。今のうちに寝ちゃお」
「そうだな。おやすみ、ルナ」
「おやすみ」
いつもと同じように眠りに就く2人は森に近づく『闇』の存在にまだ気づいていない。
その『闇』は今、護り神に迫ろうとしていた。
恐らくこの森の中で唯一『闇』を感じたデクの樹は、穏やかさを消した眼差しを空に向けた。
「……何者じゃ」
その問いに姿なき者が答える。
「デクの樹よ、単刀直入に聞こう。貴様、精霊石を持っているな?」
「……もしもワシが『そうだ』と言ったら……?」
「フン、分かりきった事を言わせる気か?無論、俺に渡してもらおうか」
「そうか……。じゃが残念だったな。ワシは精霊石なんぞ持っておらん」
強い口調にも関わらず、姿なき者は不気味に嗤った。
「フッフッフ……。デクの樹よ、俺が何も調べずにわざわざこんな森に出向くと思っているのか?」
「何じゃと…………うっ!?」
空から放たれた1つの小さな黒い光がデクの樹の体内に入り込む。
じわじわと、確実に神木を汚染していく影。
「大人しく精霊石を渡していれば苦しまずに済んだものを……。哀れなヤツめ」
「おぬし……この闇の力はまさかっ……砂漠の民か!?」
「さあな。それより……護り神を失った森はどれだけ荒れ果てるのか……楽しみだな」
『闇』は高らかに嗤い、邪悪な気配を消した。
(これは……呪いか……っ。ワシとした事が……!何としてでも、この精霊石と……ハイラルの未来を守らねば……!その為には、あの子達の力が必要じゃ……!!)
浸蝕に苦しみながらもデクの樹は言葉を紡ぐ。
「ナ……ナビィよ。妖精ナビィ、どこじゃ……。ここへ来ておくれ……」
「はい!デクの樹サマ!」
青い妖精が現れる。
声からして女の子だろう。
「ナビィ……、お前も感じるじゃろう?ワシを蝕む……いや、この森を始めとする、ハイラル全体を覆う悍ましい邪気を……。今こそあの2人の子の力が必要な時じゃ……。頼む、ワシの代わりにリンクとルナをここに呼んで来ておくれ……」
「……はい!」
次第に弱くなるデクの樹の言葉に胸を苦しめなりながらも、ナビィは広場を発ちコキリ族の集落へ飛び去った。