浄化
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ウィリアム・バーキンが爆破装置を起動したのをまだ知らないビリー・コーエンとジャンヌ・クルード。
彼らが脱出する為のリフトに乗ってレバーを操作すると
『安全バーを下ろします。リフトが完全に止まるまで降りないで下さい』
とアナウンスが流れて、安全バーが下ろされる。
この地下9階から地上フロアまでの坂を進むリフトの上、ビリーとジャンヌは複雑な面持ちでいた。
同じ事を考えているのは分かってたので、ビリーはわざと
「そんな顰めっ面で何を考えてるんだ?」
と尋ねる。
それに対しジャンヌは顰めっ面を否定せず、こう返した。
「……まだ不安を感じてるの」
自然に銃に触れてしまう事から、自分なりに内なる感情が拭えていないと呟くジャンヌ。
「建物から出られる事が安全とイコールでは結ばれていないだろうし、出た後の事まで考えると……ね」
それは護送中に襲われたビリーも察した事だった。
ゾンビ以外にも、クロウやケルベロスなど、感染した生き物が生息しているだろう。
「……そうだな。まだ気は抜けないな」
「だけどリフトのこんなスピードじゃあ、地上に着くまで当分……」
ジャンヌがそう言いかけた時だった。
突然のよろけてしまう程の衝撃が2人を襲う。
「今のは何!?」
衝撃が下からだったと目を向けた時、ビリーが叫んだ。
「女王ヒルだ!!」
パイロット坑に立ち込める砂煙の中から出現する、倒したと思われていた女王ヒルの姿は先程とは違い、獣のように四つ足で這う。
もうヒルと呼ぶのもかけ離れた外見になっている。
「しつこい奴ね……!」
焦りと苛立ちがジャンヌの中に湧くと、追い討ちをかけるように俄かに警告灯がうるさく鳴る。
『自爆装置が起動されました。総員、ただちに待避して下さい。繰り返します。自爆装置が起動されました』
「自爆装置だと!?」
「そんなっ……一体誰が起動させたの!?」
焦らせない為に落ち着いて繰り返されるアナウンスが、却って彼らから冷静さを失わせる。
階下から迫る形態を変えた女王ヒル。
そして突然の自爆装置の起動警報。
彼らの焦燥に反し、リフトは安全な速度を保ったまま上昇するだけだった。
「クソッ!!もっと急げっ!!」
ビリーがレバーをどんなに繰り返し動かしても、リフトのスピードが速まる事はない。
そして無情にも女王ヒルは彼らの気配を察したか、獲物を見つけた猛獣のように激しい動きで坂を登って来る。
自爆装置に関して鳴り響く警報は最早、女王ヒルの接近を警告しているようにしか聞こえない。
もどかしさからビリーは操作盤を叩き、ジャンヌも銃を構えてはみたが、リフトの揺れや砂煙、それに視認出来るだけでも配管がかなりある。
(下手にパイプに当たって爆発でもしたら、狭いトンネルにいる私達も無事じゃ済まないっ……!)
トリガーの指に力を入れられない間にも迫る女王ヒル。
その速度で衝突されたら、壁のないリフトに乗る2人はひとたまりもないのは明確。
だが女王ヒルにはそんな事、何の関係もない。
アンブレラへの復讐すら忘れ、破壊本能しかないそれは恐れもなく壁や照明を壊しながら、リフト目がけて突進してくる。
「マズい……!!」
逃げ場のない脆いリフトの上で蒼白する2人はなす術なく、衝突の衝撃で女王ヒルに吹き飛ばされてしまった。
浮遊感を感じる前に、袋詰めにされた資材の上に落ちるビリー達。
「いったぁ……!ビリー、大丈夫っ!?」
「っ……なんとかな……!普通に地面に落ちてたら、流石にヤバかった……!!」
体に痛みはあるが、落ちたのが資材の上だったのが幸いだった。
はね飛ばされた先は大型倉庫のようだが、外界への出入口の場所の確認すらする余裕もなく、リフトを吹き飛ばして女王ヒルが再び立ち塞がる。
「この大きさ……マイクロ波焼却炉室にいたヒル達を取り込んだのかもしれないな……!」
「ダメージを補う為にしても、これは食べすぎね……!」
しかし第二形態へと変貌した女王ヒルは、その巨体に似合わぬ速さで移動をして来るので、危険度は第一形態と同じかもしくは……。
「さっき以上にマズいかもしれないわ……」
ジャンヌがそう言う理由は視線の先にあった。
方向転換した女王ヒルに潰されたドラム缶やパイプの束が、見る影もなく原型を失っていたのだ。
これがもしも生身の自分達だったら。
―――答えは言うまでもないだろう。
「女王ヒルを接近させないようにするぞ!」
「それしかないわね!」