Epilogue
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どれだけの距離を、どれだけの時間をかけて走っただろうか。
朝焼けの深い森を抜け、ビリーとジャンヌは漸く拓けた丘の上にまで辿り着いた。
逃げる最中に後ろから聞こえた爆発音と肌で感じた風圧で、施設が跡形もなく崩壊した事は分かってはいたが、それを目で見る余裕はなかった。
軍の訓練の走り込み並みに駆けた為、正直脱出が叶った安堵よりも疲労が遥かに上回ってしまい、ついに2人してぺたりと座り込んだ。
汗が流れる肌を風が撫でていく。
こんなにも心地の良い風を感じるのは、いつぶりだろうか。
ジャンヌが目を閉じて全身で温かい朝日と優しい風を感じていると、不意にビリーに手を握られたが、彼の顔を見るのが恥ずかしく、手を握り返す事でしか応えられない。
……が、その手に付けられた枷を思い出し、一瞬だけ表情を曇らせる。
するとジャンヌはそっと彼の手を取り、髪留めをおもむろに手錠の鍵穴に差した。
彼女の行動に驚くビリーはその様子を黙って見るしか出来ないままでいると、程なくして錠の鍵が解かれた。
「……もうこんなの付ける必要はないでしょう?」
手錠を渡された彼は驚いた様子でそれをしばらく見つめる。
ジャンヌの言葉の意味も相俟って、胸がギュウッと苦しくなった。
やがて気持ちが落ち着いたのか、ビリーはゆっくり立ち上がって眼下に広がる森を臨む。
そして最後に手錠を握りしめ、力の限りに手錠を投げ捨てた。
一瞬だけ日差しを受けて光った手錠は、そのまま重力に従って鬱蒼と茂る樹海へと消えていく。
それを見届けて満足したのか、彼は草の海に体を預けるように寝転がった。
気持ちに一区切り打てたようで、どことなく満足そうにも見えるその表情を、ジャンヌは隣で見つめる。
「―――終わったのね……」
そう呟いた時、朝の空を流れる雲が太陽をそっと隠した。
黄道特急で動く死体に襲われるという現実離れした出来事から始まり、そこで元海兵隊少尉の死刑囚と協力する事になり、そこからアンブレラ幹部養成所へ。
更には地下研究施設から工場、最後は処理場へ舞台を移しながらも、同じように危険な状況で幾多のクリーチャーを撃退して、ついにこうして脱出する事が出来た。
たったの数時間が何日の事にも思える程の、嫌でも記憶に残る血生臭い出来事にも、こうして終止符が打たれる。
―――しかしそれは2人の別れを示していた。
協力して脱出するという約束は、もう果たされてしまったのだから……。