侵入
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熱い空気と何かが燃えている音。
それらを混濁した意識で捉らえた。
「……うっ……」
ビリーの指先がピクッと動いた。
(生きてる―――……?)
まだ朧げな遠い意識を取り戻す。
そして奇跡としか言いようがない状況の中、彼は痛む体で起き上がった。
辺りはトンネルだろうか、燃える炎で熱して橙色に染まっている。
よくこんな状況で大きな怪我もなく助かったものだと思った。
「……ジャンヌ?ジャンヌ!?」
運転室で別れた彼女は無事なのだろうか。
不安に駆られ、強く名前を叫ぶ。
「ここにいるわ……」
トンネルの中に弱々しい女性の声が響くと、覚束ない足取りでジャンヌが列車の影から現れた。
その声と姿を確認したビリーは急いで彼女に駆け寄る。
「怪我はないか?」
「少し足が痛むだけよ。大丈夫……」
答えながらジャンヌ達は列車に目を向けた。
「何とか止まってくれたな」
「ええ……。本当に“何とか”ね……」
しかし止まったまではいいが、出口は列車が塞いでいるし炎は燃え盛るばかりで引き返す事は不可能だった。
まだ“助かった”とは言えない。
「どこかに出口があるはずだ。探すぞ」
ジャンヌは『探すならもっとマシな場所をね』と苦笑しながら付け足した。
―――しかし、ドアを一枚潜った先でジャンヌ達は嫌そうな顔で立ち往生していた。
無理もあるまい。
そこは鼻を刺すような刺激臭が漂う下水道だったのだから。
「……最悪」
心境を例えるのに一番適した言葉だろう。
ビリーも多少嫌そうな顔をするが、もう道はここしかないので水路に降りる他、進む方法はない。
嫌々ながらもまずはビリーが悪臭漂う水に足を入れる。
さほど深くないが、彼の膝程の深さだ。
その行動を見たジャンヌがビクッと肩を跳ねさせる。
足も少し震えていた。
(女には抵抗があるか……)
溜息を吐いた後にビリーは出し抜けにジャンヌの体を持ち上げた。
「ビ、ビリー!?」
「こんな所にずっといたら鼻が曲がるだろう。早く抜けるぞ」
本当はジャンヌの足を庇っての行為だが、敢えて彼はその事を黙っていた。
ジャンヌもそれを分かっていたが、自分の中に眠る幼い頃の悪夢を思い出して言葉を口に出来ないでいた。
ギュッとしがみ付いてくるジャンヌに少し胸を跳ねさせながらも、ビリーは黙って下水道を進んで行く。
水路の奥には上へと伸びる梯子があった。
恐らく地上に繋っている物だろう。
ビリーは抱えていたジャンヌを降ろしてから自分のジーンズの裾を絞ってどんどん梯子を登って行く。
追うようにジャンヌも登ると、少ししてビリーが止まった。
上まで到達したようだ。
ガコッと重い物が外れた音と同時に、まばゆい光が2人を照らす―――……。