咆哮[後編]
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「―――それで、カプセルの機能が止まって……コールドスリープから目覚めたのか……?」
呆然とした口調でビリーが言う。
「冷凍されてたせいで体温が低下して、寒いと感じてたんだな……」
「キースの名前も知ってると思ったら……養成所の地下で見た、あの名簿にあったからだったのね……」
『更正施設収容者名簿』と、名ばかりのものに書かれた名前の中に、キースの名前が確かにあった。
「全く……滑稽な話だよな……。こんな姿になるまで、何があったか忘れるなん……て…………うぐっ!!」
「キース!?」
俄かに苦悶する、ハンターの姿のキース。
「はあっ……!っ……た、のみが……ある……!!これを……このペン、ダントを……サラにっ……彼女に届、け……!!」
「もういい!!喋るな!!」
「やめてキース!!」
「……頼む、よ……。こんな化け物の……格好じゃあ……もう、サラに会えな……」
また、キースの中で怪物が活動を開始する。
蝕まれる感覚を確かに感じるなり、彼はペンダントの鎖を引き千切ってジャンヌにそれを渡すと……。
「もう……俺は戻れ……ないんだよ……!!外の世界に、も……!彼女の前にも……人間、にも……!!」
―――泣いていた。
鱗の上を、綺麗な涙が流れる。
「か……勝手に決めないで!!きっと……きっと元の姿に戻れる方法が……!!」
「無駄なんだよっ!!」
ジャンヌの希望を探そうとする言葉を、キースは悲鳴のように叫んで突き放した。
「自分の体だから……分かるんだ……!!こうしてる今も……俺は俺でなくなってるって……!!だんだん化け物になってるんだって!!」
薄れる意識でも分かる。
醜くどす黒いものに自分そのものを塗り潰されていくような、ひどくおぞましく恐ろしい感覚を。
「ビリー……ジャンヌ……。もう1つ……頼み、が……」
2人は目を見張り、次の言葉を待った。
そして―――……。
「俺をっ……撃……て……撃ってく、れ……!!」
「!?」
絶句した。
「何を……何を言ってやがる!?お前を撃てだと!?」
「そう、だ……!!またビリー達を襲う前に……今、ここで……」
「で……出来ない!!出来る訳がないじゃない!!だって……あなたはまだ“キース”なのよ!?ゾンビとかと違う“人間”なのよ!?」
「だから……だからなんだ……!俺が本当の怪物や化け物になる前に……!」
キースの訴えに、ビリーもジャンヌも首を横にしか振らない。
「頼む……撃ってくれ!!俺が俺である今……!!サラを覚えているうちにっ!!」
キースの涙が床に落ちていく。
「兵器や化け物なんかじゃなくて……愛する人を思って……終わりたいんだ……。人間として……涙を流せる心があるうちに……!」
―――この姿で、自分の手で誰かを殺める前に……。
「っ……!!」
ビリーは唇を強く噛むと、ジャンヌの後ろから彼女の手を添えたままマグナムを構えた。
「ビ……リー……!?」
「撃つんだ!!俺達が!!」
「で、も……」
「キースが人間を殺す化け物になってもいいのか!?」
「!!」
怒鳴られ、ジャンヌの体がビクッと跳ねる。
「……ビリー、やっぱり……お前は優しい奴だな……」
ジャンヌは落涙する顔でキースを見た。
「ごめん……な……。こんな……嫌な、事を頼ん……で……」
マグナムを持つジャンヌの手が震えるのを、ビリーの大きな手が上から包んで抑える。
「……泣くなよジャンヌ……。そんな顔、ジャンヌには似合わな……ぐぅっ!!」
重く脈打つ怪物の体。
それでも心は人のままでありたいと切に願うキースは言った。
「いい……か、間違えるな……!お前達は『殺す』んじゃない……!『救う』んだ……!!本当の化け物になる俺を、助けてくれるんだ……!!」
もうキースの意識のほとんどはウィルスに腐蝕され、『自分』である事の限界に到達しようとしていた。
なのに彼の雰囲気が途端に和らぐ。
「彼女に……サラに会ったら、こう……伝えてくれ……。俺は……キースは、サラに永遠の愛を誓ったと……最後までずっと、愛していたと……。……そうだ、サラに会った時にさ……子供の顔も、見ておいてくれよ……。きっと彼女に似て……可愛い子だと思うんだ……」
所々に間が置かれていたが、とても落ち着いた声色だった。
ゆっくりと、引き金に2人の指がかかる。
「……少しの間だけだったけど……なかなか楽しかったぜ……。2人に会えて良かった……」
「っ……!!」
ジャンヌの涙が止まらなかった。
ビリーも、以前脱出の方法を残してくれた調査隊員を撃った時の事を思い出していた。
人を襲うモンスターに成り果てる前に助けたいという想いは今と一緒のはずなのに、気持ちが揺れる。
人間である時のキースを知っていたからだ。
照れたように笑ったり、つらい事に影を落としたりと、心を持った彼を見たから……。
だから決意は揺らぐけれど、厳しく抑制して銃口をキースの左胸へと向ける。
「そうだ……。それでいい……」
「キース……!!」
涕泣するジャンヌに恋人の面影が重なった時、キース・ホワイトは最後にこう言った。
「……ジャンヌ。ビリー……」
彼が目を細めて流した透明の雫が床で弾けた時、引き金が引かれた。
「―――ありがとう」
その言の葉の直後、大きな銃声が天を貫いた。
―――異形の姿をしながらも愛する者を想い、人の心を抱きながらキースは久遠の眠りに就いた。
その姿は怪物と呼ばれるものなのに、表情はとても穏やかで、非常に安らかだった……。
事切れたように硬直する2人の手からマグナムが落ち、ゴトンと音を立てた。
そして跡を残して涙が一筋、ジャンヌの蒼い瞳から流れる。
「キー……ス……。キース……!!うっ……ひっく……!!う……うわあああああっ!!」
「っ……!!くっ……そぉぉぉぉぉぉぉぉおっ!!」
ジャンヌは泣き叫び、ビリーは拳を壁に叩きつけて吠えた。
どうして罪のない彼がこんな目に遭わなければならないんだと、歎いた。
泣哭するジャンヌを、ビリーが後ろからきつく抱きしめる。
「ビリー……」
「ジャンヌ……!!必ず……キースの想いを届けよう……!!キースの分まで……俺達は生きるんだ……!!」
涙を堪えての言葉。
歯を食いしばり、想いの分だけ強く彼女の体を抱く。
その力が少し痛かったが、ジャンヌは何も言わなかった。
(胸が、痛い……)
それ以上に苦しい感情のせいで。
ジャンヌは胸に回された腕に手を添え、黙って頷いた。
そしてキースから預かったペンダントを握り、写真を開く。
写真の中のサラだけが、何も知らずに無邪気に笑っていた。
呆然とした口調でビリーが言う。
「冷凍されてたせいで体温が低下して、寒いと感じてたんだな……」
「キースの名前も知ってると思ったら……養成所の地下で見た、あの名簿にあったからだったのね……」
『更正施設収容者名簿』と、名ばかりのものに書かれた名前の中に、キースの名前が確かにあった。
「全く……滑稽な話だよな……。こんな姿になるまで、何があったか忘れるなん……て…………うぐっ!!」
「キース!?」
俄かに苦悶する、ハンターの姿のキース。
「はあっ……!っ……た、のみが……ある……!!これを……このペン、ダントを……サラにっ……彼女に届、け……!!」
「もういい!!喋るな!!」
「やめてキース!!」
「……頼む、よ……。こんな化け物の……格好じゃあ……もう、サラに会えな……」
また、キースの中で怪物が活動を開始する。
蝕まれる感覚を確かに感じるなり、彼はペンダントの鎖を引き千切ってジャンヌにそれを渡すと……。
「もう……俺は戻れ……ないんだよ……!!外の世界に、も……!彼女の前にも……人間、にも……!!」
―――泣いていた。
鱗の上を、綺麗な涙が流れる。
「か……勝手に決めないで!!きっと……きっと元の姿に戻れる方法が……!!」
「無駄なんだよっ!!」
ジャンヌの希望を探そうとする言葉を、キースは悲鳴のように叫んで突き放した。
「自分の体だから……分かるんだ……!!こうしてる今も……俺は俺でなくなってるって……!!だんだん化け物になってるんだって!!」
薄れる意識でも分かる。
醜くどす黒いものに自分そのものを塗り潰されていくような、ひどくおぞましく恐ろしい感覚を。
「ビリー……ジャンヌ……。もう1つ……頼み、が……」
2人は目を見張り、次の言葉を待った。
そして―――……。
「俺をっ……撃……て……撃ってく、れ……!!」
「!?」
絶句した。
「何を……何を言ってやがる!?お前を撃てだと!?」
「そう、だ……!!またビリー達を襲う前に……今、ここで……」
「で……出来ない!!出来る訳がないじゃない!!だって……あなたはまだ“キース”なのよ!?ゾンビとかと違う“人間”なのよ!?」
「だから……だからなんだ……!俺が本当の怪物や化け物になる前に……!」
キースの訴えに、ビリーもジャンヌも首を横にしか振らない。
「頼む……撃ってくれ!!俺が俺である今……!!サラを覚えているうちにっ!!」
キースの涙が床に落ちていく。
「兵器や化け物なんかじゃなくて……愛する人を思って……終わりたいんだ……。人間として……涙を流せる心があるうちに……!」
―――この姿で、自分の手で誰かを殺める前に……。
「っ……!!」
ビリーは唇を強く噛むと、ジャンヌの後ろから彼女の手を添えたままマグナムを構えた。
「ビ……リー……!?」
「撃つんだ!!俺達が!!」
「で、も……」
「キースが人間を殺す化け物になってもいいのか!?」
「!!」
怒鳴られ、ジャンヌの体がビクッと跳ねる。
「……ビリー、やっぱり……お前は優しい奴だな……」
ジャンヌは落涙する顔でキースを見た。
「ごめん……な……。こんな……嫌な、事を頼ん……で……」
マグナムを持つジャンヌの手が震えるのを、ビリーの大きな手が上から包んで抑える。
「……泣くなよジャンヌ……。そんな顔、ジャンヌには似合わな……ぐぅっ!!」
重く脈打つ怪物の体。
それでも心は人のままでありたいと切に願うキースは言った。
「いい……か、間違えるな……!お前達は『殺す』んじゃない……!『救う』んだ……!!本当の化け物になる俺を、助けてくれるんだ……!!」
もうキースの意識のほとんどはウィルスに腐蝕され、『自分』である事の限界に到達しようとしていた。
なのに彼の雰囲気が途端に和らぐ。
「彼女に……サラに会ったら、こう……伝えてくれ……。俺は……キースは、サラに永遠の愛を誓ったと……最後までずっと、愛していたと……。……そうだ、サラに会った時にさ……子供の顔も、見ておいてくれよ……。きっと彼女に似て……可愛い子だと思うんだ……」
所々に間が置かれていたが、とても落ち着いた声色だった。
ゆっくりと、引き金に2人の指がかかる。
「……少しの間だけだったけど……なかなか楽しかったぜ……。2人に会えて良かった……」
「っ……!!」
ジャンヌの涙が止まらなかった。
ビリーも、以前脱出の方法を残してくれた調査隊員を撃った時の事を思い出していた。
人を襲うモンスターに成り果てる前に助けたいという想いは今と一緒のはずなのに、気持ちが揺れる。
人間である時のキースを知っていたからだ。
照れたように笑ったり、つらい事に影を落としたりと、心を持った彼を見たから……。
だから決意は揺らぐけれど、厳しく抑制して銃口をキースの左胸へと向ける。
「そうだ……。それでいい……」
「キース……!!」
涕泣するジャンヌに恋人の面影が重なった時、キース・ホワイトは最後にこう言った。
「……ジャンヌ。ビリー……」
彼が目を細めて流した透明の雫が床で弾けた時、引き金が引かれた。
「―――ありがとう」
その言の葉の直後、大きな銃声が天を貫いた。
―――異形の姿をしながらも愛する者を想い、人の心を抱きながらキースは久遠の眠りに就いた。
その姿は怪物と呼ばれるものなのに、表情はとても穏やかで、非常に安らかだった……。
事切れたように硬直する2人の手からマグナムが落ち、ゴトンと音を立てた。
そして跡を残して涙が一筋、ジャンヌの蒼い瞳から流れる。
「キー……ス……。キース……!!うっ……ひっく……!!う……うわあああああっ!!」
「っ……!!くっ……そぉぉぉぉぉぉぉぉおっ!!」
ジャンヌは泣き叫び、ビリーは拳を壁に叩きつけて吠えた。
どうして罪のない彼がこんな目に遭わなければならないんだと、歎いた。
泣哭するジャンヌを、ビリーが後ろからきつく抱きしめる。
「ビリー……」
「ジャンヌ……!!必ず……キースの想いを届けよう……!!キースの分まで……俺達は生きるんだ……!!」
涙を堪えての言葉。
歯を食いしばり、想いの分だけ強く彼女の体を抱く。
その力が少し痛かったが、ジャンヌは何も言わなかった。
(胸が、痛い……)
それ以上に苦しい感情のせいで。
ジャンヌは胸に回された腕に手を添え、黙って頷いた。
そしてキースから預かったペンダントを握り、写真を開く。
写真の中のサラだけが、何も知らずに無邪気に笑っていた。
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