直後、2発の銃声が聞こえたと同時に、身体に這い上がって来たヒル達が泥のようにぼたぼたと床に落ちた。
「くぅっ……!」
ジャンヌもドサッと倒れ込んで自身の震える体をしっかりと抱く。
「はあっ……はぁっ……」
悪夢に恐怖している彼女の前には銃を手にしたビリーが寄って来ていた。
(助けてくれたの……?)
安堵の息を吐いて足元に目をやると、形を失い蠢いていた1匹のヒルがビリーに狙いを変え、恐ろしいスピードで彼に飛びかかろうとしていた。
「っ……避けてっ!!」
叫び声よりも先に素早い身のこなしで横に跳び、再度ビリーの銃が2回吠える。
弾丸が直撃して飛びかかったヒルは破壊され、他のヒル達も粘液の道を作りながら逃げ去って行った。
「大丈夫か?」
幸いヒルには噛まれずに済んだので感染は免れたようだ。
ジャンヌは苦い笑い顔で
「……今すぐシャワーを浴びたいわ」
と、冗談を交えて答える。
ビリーも『それだけ言えれば大丈夫だな』と微笑んで
ジャンヌに手を差し延べた時、歌声が聞こえた。
男性のソプラノだ。
不審に思ったビリーがテーブルに身を隠し、窓越しに外を覗く。
まるでヒル達が母親に泣きながら縋りつく子供のように見えた。
その母親のような立ち位置の男は、止まない雨の中でヒルの中央で歌い続ける。
舞台の序曲を彩るように―――……。
「……何だあの野郎は」
ビリーが不快そうに言った途端、2人はバランスを崩した。
「列車が動き出した!?」
「誰が運転を……!?」
まだこの列車内に生存者が―――……?
確かめる為に
ジャンヌが引き返そうとするも、ビリーに呼び止められた。
「待て!!俺と協力するんだ、いいな!?」
協力……。
軍人である自分が死刑囚と……?
そんな事、軍人としてのプライドが……。
ジャンヌの思考が揺れた。
「でも私は……」
つい悩みながら出した一言にビリーが怒鳴り返す。
「分からねえ女だな!!さっきの奴にやられちまうぞ!?」
言い分はもっともだ。
彼が来てくれなければ、あのまま確実にヒルに殺されていた。
こんな所で死ぬぐらいなら……。
「……分かったわ。でも、少しでもおかしな真似をしたら撃つから!」
そう言って『ここに』とビリーの額を指差す。
「それでいい。……これを持って行け。そのハンドガン、弾が切れかかってるんだろう?」
投げ渡されたのはハンドガン用のマガジン。
空になりかけた銃に早速込めながら『助かったわ』と
ジャンヌは呟く。
「無線で連絡を取り合うんだ。いいな?」
「ええ」
些か不安はあるが、幸いにも互いに戦闘に関してはプロだ。
ジャンヌはこれを前向きに考え、ビリーとの生死を賭けたサバイバルを開始するのであった―――……。
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