女王
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あれは地下研究所にて、いつものようにヒルへのウィルス投与の実験をしていた時だった。
乱暴に研究室の扉が開けられた直後に目にしたのは、銃口を向けてくる武装した男達。
何事かと声を出す前に向けられたマシンガンが火を吹けば、機材が割れ、痛みと悲鳴が血と共にマーカスから流れる。
突然すぎる状況を理解出来ないままに、机にしがみつこうとするも倒れるマーカスの視界が霞んだ。
朦朧とする意識の中で見たのは、ウィルス実験をしていたヒルが台から床に落ちた様子と、こちらに歩み寄る白衣姿の2人の男の姿。
その見覚えのある顔にマーカスが『まさか』と震えれば、男達は倒れる自分を淡白な表情で見下ろした。
「所長、あんたには死んでもらう」
サングラスの下から冷たくこちらを見遣るアルバート・ウェスカーに続き、同じく可愛がっていたウィリアム・バーキンまでもが、無慈悲にせせら笑う。
「安心して下さい。あなたのt-ウィルスは、私が引き受けますよ……。ハハハハッ……!」
血だまりに倒れる自分を心配するどころか、見世物を見るかのように声を出して笑うウィリアムの姿に、絶望を叩きつけられるマーカス。
これまでずっと面倒を見てやったというのに。
研究結果を奪おうとするスペンサーの行動を探らせたのも、2人が唯一信頼出来る人物だったからなのに。
「ウェスカー……。バー、キン……」
自分が死ぬ事で得をする者はスペンサーしかいない。
信用していた部下が、結局は敵側だったのを知るのが息絶える直前だなんて、なんと滑稽な話だろうか。
そうしてマーカスは、これまで自分がして来た実験材料と同じように処理場へと“廃棄処分”された。
因果応報。
これまでの犠牲者、またはウェスカーとウィリアムからすれば、その言葉が最も適しているだろう。
社員をモルモットのように実験動物として扱い、そして平気で処分していたマーカスの末路は、なんとも無様だった。
―――だが、奇跡は起こった。
「女王ヒルの持つt-ウィルスが、長い年月をかけて私に新しい命を吹き込み、そして私は……蘇った……!!」
打ち捨てられたマーカスの亡骸に入り込んだ女王ヒルが、新しく細胞を作り上げて自分を蘇生させた。
そう語るマーカスが再び青年の姿で怪しく笑う姿を、ジャンヌが冷眼で射抜く。
どこまでも身勝手で、思い上がりも甚だしいこの男に、沸々と怒りの感情が込み上げてくる。
それはビリーも同じで、2人の握った拳が怒りで震える。
「私はスペンサーに……いや、私を陥れたアンブレラに復讐を誓ったのだ!!そしてこの世に災いをもたらし、全てを地獄の炎で焼き尽くしてやろうとな!!」
そのつまらない復讐の前哨として、黄道特急をヒルで襲わせて乗員乗客を全滅させたのだと理解した2人は、耳障りなマーカスの高笑いに憤怒の感情をついに抑えられなくなった。
「ふざけるんじゃねぇ!!」
「そんな事っ……絶対にさせないわっ!!」
野望を阻止してやると示すようにビリーがマーカスを指差すも、高笑いはなおもマイクロ波焼却炉室に響く。
「ならば私を止めてみるか!?お前達2人だけで出来る事なぞ、たかが知れているがな!!ハハハハハッ!!」
そう言い放つマーカスに武器を向けようとした時だった。
笑い声が止まったかと思えば、突然にマーカスが透明な液体を嘔吐して動かなくなる。
一番に困惑するのは彼自身だったが、吐瀉物に触れて己の身に起きている事を漸く知る。
「バカ、な……!何故っ……何故なんだ女王……!?ま、さ……か…………ぐっ!?」
次にマーカスが吐き出したのは、何匹ものヒル。
さっきの吐瀉物はヒルの粘液だったらしい。
ただならぬ事態にビリーがジャンヌを守るように立つと、一気にマーカスの体が隆起して醜く変貌していった。
青年はおろか、人間の姿だった面影もなくしたその様は、ぬめりを帯びたダークグリーンの皮膚にナメクジのような触角を生やしている。
そしてマーカスは2メートルを優に超える怪物になると、二度と人間の言葉を話す事はなくなった。
「女王ヒルが……マーカスの体を乗っ取ったの……!?」
「いや、違う!最初からマーカスは生き返っちゃあいなかったんだ!!」
いくらウィルスの力があったとしても、人間だったものがヒルで体が構築される事はないと推測するビリー。
「マーカスの言っていた、女王ヒルが新しい命を吹き込んだっていうのは、遺伝子情報を取り込んでマーカスの意思そのものを乗っ取ったって事なんだ!!」
「それじゃあ、今までのマーカスは……」
「ああ、マーカスの記憶を元に動いていた、女王ヒルだったんだ!!」
黒幕が分かったと同時に、女王ヒルが彼らに飛びかかる。
立ちはだかられ、改めて大きさに圧倒されるが怯んでいる場合ではない。
女王ヒルを倒さなければ。
例えこのまま逃げられても、マーカスの記憶を持つこの女王ヒルが外の世界に出たら、養成所や処理場のようにウィルスに感染したゾンビで溢れてしまう。
「もう……キースのような犠牲者を出させないわ!!」
「行くぞ!!」