浄化
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武器を向けて真っ先に目についたのは、剥き出しになった口。
体内への攻撃なら効くに違いないと、2人はアイコンタクトを交わすなり同時に駆ける。
違う方向へ走る獲物のどちらを追おうかを迷う素振りを女王ヒルが見せた直後、ジャンヌが放ったグレネード弾が剥き出しになっていた部分に命中した。
すると耳障りな悲鳴を上げながら怯む女王ヒル。
やはり彼らの読みは当たっていたようだが、やられてばかりの女王ヒルではない。
またしても本能で身の危険を察したか、今度は触手ではなく毒液を撒く攻撃をして来た。
「ジャンヌ!こっちだ!」
ビリーが彼女を呼んだのは、倉庫内にある移動用の階段。
女王ヒルはまだ怯んでいる。
その隙に彼のいる場所まで走るジャンヌ。
「ここなら死角にはなるが……時間の問題だな」
いつまでも隠れられはしないと見込むビリーに、同感だとジャンヌも頷くと
「さっきの一撃だけであの怯みよう……残りの弾薬の事も考えて、弱点への確実な攻撃が求められるわ」
と冷静に状況を分析した。
「確実さならジャンヌの腕を信頼してるが……弾の残りはどうだ?」
「……正直、足りるか分からないわね。最悪、ハンドガンでなんとかするしか……」
冗談のような事を言うが、現実を見るとその可能性も多いにある。
果たしてあの巨体にハンドガンごときでダメージを与えられるのか―――否、気を引く程度が関の山だろう。
(何か武器になりそうな物でもあれば……)
倉庫内を探ろうと姿勢を上げた時だった。
何もしていないはずなのに、女王ヒルがまた耳障りな悲鳴を俄かに上げ、2人は顔を見合わせる。
何故、攻撃を加えていないタイミングで女王は苦しんだのだろうか。
その答えは何かから逃げるように後退する様子、そして天井の隙間から僅かに零れる強い光で察する事が出来た。
「朝日から逃げてる……!?もしかしたら女王ヒルは日光に弱いのかもしれないわ!」
屋根の隙間から僅かに注ぐ朝日。
それを受けた体から、ジュウジュウと音を立てて焼けている。
これまでの火とは違う弱点―――日光を浴びせられればと思考するビリーが辺りを見回すと、ある事実に気がつく。
「ここはヘリポートだったのか!」
倉庫という名称の割りに、随分がらんどうだと感じた理由は、床に書かれていたヘリコプターの緊急発着場を示すマークで合点がいった。
「ヘリポートなら、天井を開く装置が……!」
パッと見渡しても、研究所のロープウェイを動かす為の機械室のような場所はない。
代わりに見つけたのは、1から4の番号が割り振られたハンドルの付いた装置。
「あれだわ!きっと順番にハンドルを回せば……!」
一度に解除出来ないのが難点ではあるが、ロックを解除して天井を開ければ女王ヒルに一気に朝日を浴びせられる。
そうすれば……。
「ジャンヌ」
出し抜けにいつになく低い声でビリーが呼んだ。
「俺が奴を引きつける。その間にロックを解除してくれ」
ハンドガンの弾は、さっき拾ったのも相俟って豊富にあるから。
そう理由を続けて言おうとしたビリーだったが、突然ハンドガンを握る手を掴まれて言葉が詰まった。
「またそうやって……!どうしていつも自分ばかり危ない役を引き受けるのよ!?私がそれで納得すると思う!?」
怒っているような言の葉でありながら、彼女の表情は憂いに満ちている。
「……約束したじゃない。私にあなたの背中を……全てを守らせてって……!」
自分の弱さを打ち明けた時に告げた願い。
それを「充分すぎる」と答えた彼もまた、ジャンヌに同じ事を約束したのだ。
「だからっ……!」
僅かに声を震わせ、重ねる手に力を込めるとジャンヌは感情を圧して言葉を紡ぐ。
「……ビリーだけに危険なマネはさせない。それが私達が交わした約束よ」
「ジャンヌ……」
何度、この真っ直ぐに向けられる空色の瞳に心を打たれただろうか。
自然に胸が熱くなる。
「……分かった」
ビリーは頷くとハンドガンの弾薬を彼女に握らせて
「お互いに無理はしない事。身の危険を感じたら迷わず逃げろ。いいな」
と、互いにロックの解除と囮を担う旨を伝えた。
「……ええ!」
力強く同意を示すジャンヌと握った拳を合わせ、女王ヒルを倒さんとする意思を交わす。